小説
元親を飼ってみる
我が家には駄犬がいる。

「元親、足を舐めろ」

絨毯に座っている犬の前にソファからすっと足を差し出す。



「…あの、元就サン?」
「なんぞ、駄犬」
駄犬って…とブツブツ言っている犬の顎を足でつつく。
「どうした。何ぞ言いたいことでもあるのか?」
顎をつついていた足を犬の体のラインにそうように下ろしていく。喉から胸元へ。その足を再び持ち上げて唇に触れさせる。
「何をしておる。舐めよ、元親」
嘲るように言い放つと、犬はしばし黙り込んだ後、口を開いて親指に舌を這わせた。



ぴちゃぴちゃと足の指を丹念に舐める犬を見つめる。きっと自分は恍惚とした表情をしているだろう。
この犬は自分には逆らわない。口では何と言おうと、最後には自分の言いなりになるのだ。

でかい図体、無駄に整った顔立ち、柔らかで綺麗な銀の髪。
その姿は見ているだけでイラッとするのだが、こうして自分に忠実な様子を見せている時だけは愛しいとさえ思えるかもしれない。


この犬は、自分のモノなのだ。


心底そう思うこの瞬間が何よりも好きかもしれない。



「情けない姿よ。そなたにはプライドはないのか?」
足の裏を丁寧に舐める犬を罵倒する。犬は伏せていた顔を上げ、舐めるのを中断した。
「プライドなんかよりあんたが大事だ」
真摯なその目に射抜かれるような錯覚を覚える。


「あんたが望むなら何でもしてやるよ、元就」





終わり

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