小説
元就を飼ってみる。
猫を飼っている。
白くて小さくてスラッとしている。欲目抜きに見ても綺麗な猫だと思う。


「元就」
呼びかけるとチラッとこちらを見たが、すぐに興味なさそうにそっぽを向いた。
「こっち来いって」
めげずに呼びかけ手招きする。けれど愛猫はツーンと顔を背けて無視を決め込む。
そうっと手を伸ばす。気付かないうちに抱き込んでしまおうと伸ばそうとした手だったが、残念ながらあと少しというところで気付かれて、ガリっと引っかかれてしまった。
「いって!! こらっ!」
さすがに怒鳴ると、猫はチラリとこちらに視線を向けた。
「勝手に我に触れようとするからぞ」
「勝手にって…お前、俺は飼い主だぞ」
「ふん。貴様がどうしてもと望むから飼われてやっておるだけよ」


ああ、何て可愛くない。




美人だが気位の高い愛猫の元就は、なかなか懐こうとしてくれない。
幾度この態度に腹を立て、いっそ捨ててやろうかと思ったことか。

でもそんなこと出来やしない。何故なら…。





夜、布団のなかでうつらうつらしていると、何かが近付く気配がする。
「元親、もう寝ておるか?」
小声で元就がささやく。それは起こすための呼びかけではなく、眠っていることを確認するためのささやき。
「寝ておるな?」
そっと触れても身じろぎしないことに、寝ていると思い安心したらしい元就が次の行動に移る。
毛布をめくり、ゴソゴソと布団の中に入ってきた。
自分からすり寄ってきて尻尾を足に絡ませてくる。
「ちか…」
甘えるような声で呼ばれるのが聞こえる。でもまだ我慢。
そのうちに元就の体から力が抜けていくのを感じる。眠ったのだろう。


そこでようやく目を開き、そばで眠る愛猫を起さないようにそっと抱き締める。

安心しきった可愛い寝顔。



こんなの見せられたら、可愛がらずにはいられない。
ああ、何て可愛い猫だろう。





「元就、なんで畳んでた洗濯物がぐちゃぐちゃなんだ?」
「ふん。我の行く手を阻むものが悪いのよ」
「避けろよ!」

たとえ普段がどんなに我儘で可愛げがなくても、やはり可愛い猫なのだ。







終わり

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あきゅろす。
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