小説
まほろば8 ☆
夢と現を行ったりきたりしていた。



最初に目が覚めたとき、目の前には難しい顔をした男がいた。
目を開けた自分にほっとした様子を見せたが、言葉を発するのも億劫で眠気に負けて再び目を閉じた。
それから、時折目覚めまた眠ってを繰り返した。
なかなか意識が浮上しない。とにかく眠かった。けれど起きるたびに周りが煩く呼んでくるので眠り続けることも出来なかった。



そして幾度目かの目覚め。
そこには顔を強張らせた愛しい人の姿が合った。
幻だろうか。ついにやばいのか、なんて思った。
最後だから自分の望む姿を見ているのだろうか、なんて。
けれど目のあった彼の人は、強張っていた顔を耐え切れぬように崩しながら名前を呼んで来た。
「そ、かべ…長曾我部…ゆる、さぬ…」
ああ、そうだな。許さないだろうなお前は。
自己満足のために大事な家から切り離した自分を。大切にしたいからと言いながら檻に閉じ込めた自分を。
「こんな、ところで、し…では、ゆるさ…。は、はやく…おき…て」
「もと…り…」
「そなた、だけぞ…。なにも、ない我を…必要とするのは。そなたがおらねば、我は…」
手を持ち上げられ、抱きしめられる。
これは…夢なのか。
「早く、治せ。我はそなたと、話をしなければ…。だから…」
ぽろぽろと涙を零しながら元就が訴える。
話、か。そういえばあまりちゃんと話を出来なかった。

自分は伝えることに必死だったし、元就は不安そうに見るばかりで言葉をあまり発しなかった。
話を、したい。
元就がそう求めてくれているのだ。
たくさん、話がしたい。


「外へ、連れて行ってくれるのであろう。四国を案内すると」
「そうだ…な」
約束した。四国の良いところをたくさん見せたいと。
一緒に歩きたい。話をしながら共に歩いて。
そして笑った姿が見たい。


ああ、今ものすごく。


「あんたを、思い切り抱きしめたいな」
思ったことを告げると、元就は目を見開いてこちらを見た。
悲痛な表情だった元就の顔が変化した。
呆れたような、安堵したような、それは。
「身体を治さねば、無理ぞ」

確かに、笑い顔だった。











「呆れた」
元就がぽつりと呟いた。
なんだ、と問うとその頑丈さにと答えが返った。
「早く治せっていったのはお前だろ」
「………知らぬ」
ぷいと顔を背けてしまった元就を見つめる。
くいっと繋いだ手を引っ張る。軽い元就の身体は簡単に引き寄せられる。
「なにをっ!」
「な、綺麗だろ」
夕日の落ちる海を指差す。
2人で四国の浜辺へ来ていた。
日輪を信仰する元就には日が昇る時のほうが良かったかもしれない。けれどそんな朝早いのはまだ無理だったので、夕日の時間帯に連れてきたのだ。
これだって十分に綺麗なのだ。
文句を言うかと思われた元就だが、何も言わずじっと赤く染まった海を見つめていた。


「長曾我部…」
海を見つめたまま元就が呼びかけてくる。
「なんだ」
「我には…何もない」
何を言うのだろうと元就を見つめた。彼女の視線は夕日と海に注がれたまま。
「領土も、城も、毛利も、何もない。存在意義すらない」
「元就!」
あまりの言い分に語調を荒げると、困ったようにこちらに視線を寄越した。
「だが、本当にそうとしか思えぬ」
今まであまりに家に縛られていた。それが全てだった。
「俺は元就を望んでる」
悲しい言葉をそれ以上聞きたくなくて遮った。
「俺には元就が必要だ。側にいて欲しいんだ」
「何もないのに?」
「ただのあんたが欲しい」
望んだのは毛利元就じゃない。唯一人の元就。



「そなたが…そんな、だから…」
元就が身体を震わせながら俯いた。
「元就…?」
ゆっくりと顔を上げた元就は、目を潤ませながらも笑っていた。
「我は、そなたのそばでしか生きれぬようになってしまったのだ」



―――この男の隣が、我にとってのまほろば。






END




これにて終了。
上手く纏めれなかったのが残念ですが、私にはこれが精一杯。

読んでくださり、ありがとうございました。



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