小説
まほろば6 ☆
派手な音を立てて本田忠勝が倒れた。


激しい戦いだった。
かつて手を組んだこともある徳川との戦。
昔を思い出しながらも、互いに引けぬ思いを抱えて戦った。


ぼろぼろになった家康に槍を向ける。
「どうする?」
「………っく」
ここまで来て、これだけの命を預かってきて、諦めなんてつかないのが当然だ。
破れかぶれに槍を振るってきた家康に、こちらも武器を振るい槍を払い飛ばした。
「ワシは…ワシは…!」
倒れた家康は必死に涙を堪えていた。勝敗は決した。けれど最後の言葉が出ないのだろう。
負けを認める…それは全てが終わることを意味するから。
部下思いの家康は、着いてきてくれたものたちに顔向けが出来ないと悔やんでいるのだろう。


戦っている間、徳川軍の家康への希望を見た。
家康のこの先への展望を感じた。
こいつは…きっと…。


「お前が、天下を治めろ。家康」


俯く家康にそう言うと、家康は何を言われたのかわからないとこちらを見上げてきた。
「な…に」
「この戦でわかった。お前の志が。俺よりお前のほうが天下を治めるに相応しいだろう」
天下より大切なものをもつ自分より、先への展望をもつこいつのほうがずっと。
「その代わり、平和な世をつくってくれ。戦のない…みんなが笑っていられる世を」
「元親……」
「頼む」


これが、一番良いのだと思えた。
家康なら天下太平を実現できるだろう。
それは自分の望みにも叶っているのではないか。
そう思えた。きっとそうだ。
だから。


「頼む、戦を終わらせてくれ」
もう戦わずにすむように…。



涙をぼろぼろ流しながら家康は頷いた。
「必ず…必ず期待に応える!ワシはここで誓う!」
決意の篭った家康の目を見て、頷いた。
これで、良いんだ。



安堵した途端に身体が重く感じた。
本田忠勝に付けられた傷が今になって痛みを発し始めた。
歩き出そうとするのになかなか足が動かない。
こんなところで立ち止まってはいられないのに。
帰らなければいけないのに。
自分の国へ。彼の人の待つ、四国へ。


帰らなければ、そう思うのに。
身体が重くて。
家康の驚きの顔が目に入り、消えていく。
目の前には何故か地面があって。


「元親っ!」


家康の呼び声が遠く聞こえた。





END



元親外伝ストーリーをもとに。


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あきゅろす。
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