小説
まほろば4 ☆
「アニキ、準備は出来てます」
報告にやって来た部下に労いの言葉を送り、今日はもう休めと伝える。
篝火に照らされた陣幕でひっそりと笑う。
ようやく終わるのだ。


明日、天下が統一される。
天下をとるのは自分…西側を統べる長曾我部か、それとも東側を統べる徳川か。
それは明日にならなければわからない。けれど明日には決着が着く。
東西の軍が衝突する。
それに勝った方が天下を治めるのだ。



盃に酒を満たし、ぐいっと飲む。
空には月がかかっている。
この月を、あいつも見ているだろうか…。
遠い四国の地に置いてきた想い人を思う。


外へ出たいと言っていた。
戦場から連れ出し傷つくことのないように真綿に包むように庇護し、守っていた。
けれどそこは彼の人には檻でしかなく。
外へ出たいと悲しそうに告げた。
けれど時は戦国乱世。外へ連れ出せば危険があろう。また戦乱の世のつまらぬ話が耳に入ってしまう。
そのどれもが嫌だった。
二度と戦場へ出したくない。どこが勝ちどこが残り…そんな血なまぐさい話も聞かせたくない。
優しい綺麗な常世のような世界で。傷つくことなく穏やかに暮らさせたい。
かと言って望みを叶えず悲しい顔をさせたまま閉じ込めることも出来ない。
自分は彼の人に笑って欲しいのだから。



矛盾した思いに決着をつける方法は一つだった。
戦乱の世を終わらせる。
戦のない世界なら、彼の人を連れ出せる。危険もない、傷つくことを恐れる必要もない。
平和になった世を見ればきっと喜ぶだろう。
幸い西側はすでに押さえていた。小さな内紛はあったが、たいしたことはない。
後は東…。その動向を伺えば、東も一つの旗の下 統一されつつあった。
好都合だ。あとは東側の旗印、徳川を抑えれば良い。
そうすれば…外へ連れ出せる。


「後少しだ」
終わったら、外へ連れ出してやれば、太平の世を見せれば。
笑ってくれるだろうか。
悲しい顔でなく、嬉しそうな表情をしてくれるだろうか。
「中国へも連れてってやらないとな」
何よりも大切にしていた故郷だ。
今までは危ないからと連れて行けなかったが、戦乱が終わった世なら連れて行ける。
そうしたら喜ぶだろうか。
幾度も想像した花の綻ぶような笑み…。それを浮かべてくれるだろうか。
「喜んで欲しいんだ」
穏やかに優しく微笑んで欲しい。憂うことなく、幸せに。
「もうすぐ終わる。だから」


だから、どうか。


祈るように月を見つめ、盃に満ちた酒を煽った。




END




どれだけ好きなんですかと…。


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あきゅろす。
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