小説
まほろば 〜夢の始まり〜 (一万打企画)
1万hit フリリク作品です。
リクはまほろばの元親視点での初夜話、でした。
初夜といっても裏要素が皆無に近いのですが…。
元親視点でいろいろ語ってみました。
ありがとうございました!






海を挟んだ隣。そこに冷酷と噂される智将の治める国がある。


天下への仄かな夢とそれ以上に心を占める己の国と気ままな海賊としての暮らし。
時代を見定めながら過ぎていく日々に不満はなかった。
しかし隣国の噂には眉を潜めていた。


己の兵を駒と呼び平然と犠牲にする。そんな戦い方を耳にするたび不快な思いに囚われていた。
東国がきな臭くなった時、動くときが近づいたと感じた。
今までのような小競り合いで終わらない、天下を奪い合う大きな時代の波が来るのを予感した。
だから中国のことをそれまで以上に調べた。
自分自身も海を渡り密かに安芸の地へ足を踏み入れ様子を伺った。
冷酷な大名の納める地はやはり陰気なのだろうかと予想していたが、中国の地は穏やかで平和だった。
治世はしっかりしているのかと認識を改め、更に調べた。


そして夜の厳島で。
彼の人物を見た。





人気のない静かな浜辺で舞っていた。


毛利元就。
その人が女であることは知っていた。
厳島で何度か奉納を行っているという話も聞いている。
しかし今、彼女は大きな祭殿で厳かに舞うのではなく、誰人も見ることのない場所で一人舞っている。
愁いを帯びた表情で静かに儚く。


ふと、毛利が数日前に戦をしていたことを思い出した。
そうか、これは…鎮魂の舞。
誰もいない場所でただ一人送り出す。
誰にも見られないように一人で。



噂とはかけ離れた姿に逆に納得がいった。
何故あんなにも酷く伝えられるのか。
誰にも弱みを見せぬよう抱え込んで、心を押し殺し。
兵を犠牲にすることに躊躇いを見せず、全ての罪を背負い。
ただ、一人。一人きり。



一人舞うその人は、今にも壊れてしまいそうに思えた。










輪刀が空を舞う。
目の前で華奢な身体が朱の床へ倒れこむ。
伏せたその側に槍の刃を突き立てる。
倒れた将は腕の力で上体を起き上がらせるが、それが限界のようで立ち上がる様子はない。
切れ切れの吐息を漏らしながら憎憎しげにこちらを見上げる。
「あんたの負けだ、毛利元就」
「くっ……」
端正な顔を顰め起き上がろうともがく。しかしすぐに力尽き再び倒れこむ。
隣に腰を落とし、傷だらけの身体に触れる。
こんなに傷つけるつもりではなかったのに、あまりの抵抗の激しさに上手く手加減が出来なかった。
「おのれ…おの、れ…」
触れた手をどかそうと足掻きむずがる子供のように顔を左右に振る。けれど些細な動きも弱った身体には負担がかかるのだろう。
軽い身体を抱き上げたとき何かを言うように口が開いたが、声を発することなく意識を失った。



かつて見た孤高の舞姫は戦場でも舞っていた。
死の舞を。
愁いを隠した冷たい眼差しで敵も味方も睥睨して。
血に濡れながら舞っていた。





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あきゅろす。
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