小説
コッペリア(一万打企画)
1万hit フリリク作品です。
リクは戦国時代の元親の一方通行もしくは元就の片恋、でした。
せっかくなので両方の要素を入れてみました。
まめ様に捧げます。
ありがとうございました!





金細工、銀細工、珊瑚をあしらった首飾り、繊細に染められた布地。
国主であると同時に海を渡る海賊でもある長曾我部元親は、華やかな宝物から物珍しい異国の品々まで多種多様な物を手に入れる。
そしてそれらのいくらかを、安芸へと着けた船に乗せてくる。
中国の女主、毛利元就への手土産として。



元就の私室へ通された元親は、持っていた葛篭をそっと置いた。
目の前に座っているのは作り物めいた美貌の女。
表情の乏しい顔をそっと横に傾ける。
「土産だよ」
元親はそう言い、葛篭を更に前へ差し出す。
元就は視線は寄越すが手に取る素振りも見せずじっと動かない。
受け取り気はない、と暗に示しているのか。
けれどそんな反応はいつものことなので、元親もいつもの行動として触れられないままの葛篭を自分の下へ戻し蓋を開けた。
中から現れたのは、碧色の布地。
広げて見せたそれは小さな花模様が散りばめられた着物であった。
「飾りも揃えさせたんだ」
葛篭の中から更に耳飾、首飾り、簪が出てきた。皆同じ石を細工に使われている。
一つでもそれなりの価値のありそうなもの。それが一つの揃いとしてあつらえられている。きっと相当な値打ちとなるであろう。
「この布地を手に入れて、あんたに似合うように着物を仕立てたんだ」
そしてそれに合うように飾りも作らせた、と四国の主は語る。
けれど対する元就は、冷めた目でそれらを眺めていた。



再び差し出された中身を露わにした葛篭に、それでも元就は触れようとはしない。
「愚かな…」
感情の伴わない平坦な声が紡ぎだされる。
「我に貢いだとてそなたには何の利もない。そして我も受け取る気はない」
今まで幾度となく繰り返された言葉。
元親は表情を変えることなく、これまた幾度も繰り返された言葉を返す。
「いいだよ。俺がお前にやりたくてやってるんだ」
惚れた女に貢ぎたくなるのは男の性ってやつだ。
続けられた言葉に元就は眉を顰める。
そんな表情さえ鑑賞するに値するほど美しい。



幾度 想いを伝えても一向に靡こうとしないつれない人に、けれど諦めることさえ出来ないのはこうして会うたびに見惚れてしまうから。
姿かたちはもとより、ひとつひとつの動作仕草さえも美しい。
「なあ、着てみてくれよ」
立ち上がり贈り物の着物を取って広げてみせる。
元就はその動作につられるように元親を見上げる。
大柄な体躯のわりに静かな動作で元就のそばに寄り、座る元就の肩に着物を羽織らせる。
優しい碧色はやはり元就に良く似合う。
首飾りを掴み元就の首元へ伸ばす。
抵抗することもなく、その動作を黙って受ける元就にやはり表情はなく。
何の反応もないのもいつものことか、と元親は内心で苦笑しながら元就に首飾りを飾った。
受け取ろうとしない、けれどこうして手に取らせても抵抗しない。
それは受け取っても良いという意味なのか、それとも無視をしているだけなのか。
出来れば前者であって欲しいと思うが、この御仁の何も浮かばぬ無表情からは何も読み取ることが叶わない。
自分の想いは少しは伝わっているのだろうか。
焦がれる気持ちは膨れるばかりなのに、肯定も拒絶も与えられず元親の気は急くばかり。



耳飾も両の耳に飾り、簪を手に取る。
その手に元就の手が重なった。
珍しい反応に驚いて動きを止めると、元就がそっと簪を奪い去る。
奪った簪ごと手を膝の上に戻す。
「どうした?」
「この髪にはさせぬ」
確かに元就の髪は短い。だが結い方しだいではさせないこともない。でも元就は明確に拒否した。となると無理強いはしないほうが良い。
元親は大人しく引き下がった。
着物をちゃんと着付けたわけではないが、揃いであつらえた品々が元就に良く似合うのでともかく満足であった。
勝手に着飾らされた元就はけれど怒る様子もなく、先ほど奪った簪を見つめている。
「京で揃えたんだ」
「……京へ行っていたのか」
「いや、もっと上。奥州まで行ってた。政宗が良い酒があるから来いって呼び出してきてな。京はその行きがけに寄ったんだ」
仲の良い奥州の女主の名を出したが、目の前の人の様子は変わらない。
それに悔しい思いがこみ上げて、元親は殊更楽しげに奥州でのことを語った。
酒比べをしたこと、最後は2人して酔いつぶれて雑魚寝をしてしまい竜の右目に怒鳴られたこと、政宗が手料理を振舞ってくれたこと。
けれど元就は黙ってそれを聞いているだけ。
凪の海のように静かな様子に元親は更に焦れる。



手を差し出す。
不思議そうに瞬いた目を手の平で覆う。
「…何ぞ?」
意味のある行動ではなかった。
ただ、自分を映し出していないような瞳に我慢がならなくなっただけ。
そんなこと言葉に出来るわけもなく、元親はそのまま顔を近づけた。
触れた唇は柔らかかった。
けれど顔を離しても元就の様子に変化はなく。
本当に人形を愛でているようだと軽い落胆を覚える。
「そろそろ、帰るな」
「そうか」
目を閉ざされたまま、元就はやはり平坦な声で応える。
「次の航海で三河に行く予定だが、なんか欲しいものはあるか?」
「徳川へ?」
「ああ。家康がたまには顔出せってな」
「欲しいものなどない」
「……そっか」
そっと手を離す。
琥珀色の静かな目が現れる。
綺麗なその姿をもう一度目に焼きつけ、席を離れる。
今度は何を持ってこようか。
例え受け取らないと言われても、こうして置いていったものを突っ返されたこともない。
ならば勝手に持ってきて勝手に置いていくだけだと開き直って次のものを考える。
今度は真珠にしようか。それとも珍しい本でも探そうか。



「長曾我部」
室を出る寸前、元就から声がかかった。
「次来るときは甘味でも持って来い」
我は甘味は好きだ、と平坦な声が続ける。
初めてもらえた土産の所望に、元親は心が浮くのを感じた。
「お、おう!」
美味いの探してくるぜ、と何とか返事をした。
反応のない人形からもらえた反応。つまりこれは少しは進展したということか。
これでまた諦めがつかなくなった、と嬉しさの混じった苦笑いを浮かべた。










簪を手の平で弄くる。
細かに施された細工を眺める。
『政宗が良い酒があるから来いって呼び出してきてな』
『家康がたまには顔出せってな』
ぎりっと簪を握り締めた。細工が手に刺さり痛みを訴える。
『惚れた女に貢ぎたくなるのは男の性ってやつだ』
「……嘘吐きめ」





END






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