小説
輪廻の先を思う
戦を翌日に控えた夜。
負けるとは思わないが戦を前にして軽い気持ちでもいられない。
神妙な面持ちで元親は盃を煽った。
「父上」
側にいた長子、信親が真剣な眼差しでこちらを見ている。
こいつも緊張しているのかと元親は思い「なんだ」と気持ちを落ち着けるように殊更優しい声で返した。
「もし、私が死すことがあるとしたら…」
「信親」
信親の言葉を強引に遮った。とても不吉な言葉を吐いたからだ。
「そんなこと言うんじゃねえ」
怒りを含んだ強い声で言ったが、息子は怯える風もなく受け流す。
「お聞きください。もちろんそんなつもりはありません。ただ、仮にとして」
「聞きたかねえがな」
元親は苦々しく言うが、信親は話をやめるつもりはないようだ。
「次に生まれ変わるときも私は父上の子として生まれます」
「…そうなれば嬉しいがな」
生まれ変わっても親子として出会いたい、その気持ちは純粋に嬉しい。
「いえ、これは決定事項なので」
やたらきっぱりと信親は告げる。それは希望を述べているとかそんな感じではなく、決まっていることを告げるような言い方だ。
「…やけに自信満々だな」
「決まっていることですから。この戦国の世の我らが死せば先の未来…現代とか言うところで巡り合うようになっていますので」
「…なんだそりゃ」
なんだか先ほどの重苦しい雰囲気が軽いものになってきているような。
元親は信親を訝しく見つめる。
「その上でのお願いです。元就公とは私をつくってからくっついてください」
「……はあ?」
変な声が出た。
「私と隆元のためです」
毛利の長子の名が出て更に首をかしげた。
何故ここに彼の名が出てくる。確かに信親とは親しくしているようだが。
「父上たちが新たな世でも出会い結ばれることも決定事項でしょう。それは良いのです。ただあまりに早いうちから結ばれては、例えばお二方が男性同士であれば私と隆元が生まれません。それは由々しき事態です。また、元就公が女性でいらした場合、お二方が結ばれてから元就公が私たちを産んでしまっては私と隆元は兄妹 又は姉弟になってしまいます」
滔滔と語られる内容に元親は気圧されながらもある事実に気づいた。
お前ら、そんな仲だったのか。確かに仲良過ぎかなとは思ってたが。
「もちろん、私の隆元への思いに血の繋がりなど障害にはなりえません」
いや、十分 障害だろ。
「しかし隆元を真に幸せにするためには後ろ暗いことなどなく世間的にも立派な夫婦となるのが一番かと」
というか隆元が女に生まれ変わることも決定事項なのか。
「そのためにはやはり父上と元就公には私たちをつくってからくっついていただかないといけません。そこのところ良くご理解のうえ、早まってくっついてしまわないようにしてください」
何故 自分と元就が早々に結ばれることを『早まって』などと言われなければならないのか。
流石にカチンときて我が子を諌めようと口を開いたが、それより先に信親が止めとも言える言葉を紡いだ。
「万が一にも父上たちが私たちをつくるより先に結ばれた場合、お二方には浮気をしていただきますよ」
…どうあっても血の繋がらない子供らをつくれということか。
信親のあまりに真剣な眼差しに、元親の背に冷や汗が流れた。





同じ頃、安芸の国にて毛利元就は長子である隆元の言葉に凍り付いていた。
「父上、来世に生まれ変わった折には長曾我部殿と結ばれる前に私を産んでおいてくださいね」
元就が女性に生まれ変わることも決定事項のようだ。





END




次世代も好きなのです。
で、次世代を含む転生ものを想像したとき信隆はどうなるんだろうと考えてしまいこうなりました。


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あきゅろす。
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