小説
雨に沈む (3500hitリク)
3500hit キリリクです。桃猫 様に捧げます。
親就で悲恋です。
※ 死ネタ注意です。




今まで感じたことのない衝撃が身体を襲った。
燃えるように熱い腹に視線を落とすと、赤く染まった槍が己の腹に突き立てられている。
口から吐き出された血の味に眉を寄せ、目の前の男を見た。
「鬼よ…」





その男が中国へ訪れるようになったのはいつの頃からだったか。
瀬戸内を挟み敵であったはずの四国。その主が、一度戦を行ってから、何を思ったか己に興味を持ったと戯言を言い始め同盟関係にあるわけでもないのに己の元に姿を現すようになった。
もっと気楽に生きろよ、部下を信じろ、あんたは一人じゃない、いつもいつも説教のようなことを言う男に始めは苛立ていた。
いくら言っても聞かないから。
何を言っても無駄だから。
飄々と現れ同じく唐突に去る男を、いつしか呆れながらも許容していた。



その関係が変化したのはいつかの夏。
いつものようにふらふらと海を漂っていた男が久方ぶりに瀬戸内へ戻り、ついでとばかりに中国へ立ち寄った。
またくだらない戯言を繰り返すかといささかうんざりしながらも、久しく見なかった銀髪を懐かしい思いで眺めていると、思いもよらない言葉が耳朶に響いた。
「奥州と同盟を結んだ」
「…伊達?」
東国に頭角を現していた奥州の竜。天下を取ると豪語し着実に領土を広めつつあるその存在には警戒していた。
天下に興味はないが、領土は維持する。
それが己の本分であり、目の前の男も同じだと思っていた。
それが、天下取りに名乗りを上げている大名と同盟。
「あいつの天下取りに協力する。最終的には膝を屈することになるが、四国は俺が納めることで話は付いてる」
面白い奴なんだ。話してて意気投合してよ。あいつになら協力してやりてえ。
思い出すように語る男を呆然と見やる。
何を考えている。そして、何故それを己に話す。
問うより先に男が再び口を開いた。
「あんたも、一緒に協力しないか」
「なに…?」
伊達に協力すれば領土は保全される。多少の不自由はあるかもしれないが一応は安泰だ。悪い話じゃない。
熱心に連ねていく男の言葉を上の空で聞いていた。
男が、長曾我部が伊達を組む。天下取りに組する。
胸のうちから込み上げてきたのは抑えきれないほどの怒りだった。



伊達への協力の要請を一蹴し男を追い出した。
けれど懲りずに男は幾度も城を訪れる。
「あいつは味方には寛大だ。だが刃向かう奴には容赦しねえ」
その意味が分かっているだろう。そう続ける男の言葉に苛立ちは募るばかり。
あんな小僧に何が出来る。本当に天下を取れるとでも思うてか。ましてこの毛利が敗れるとでも。
けれど情勢は動いていく。東国は伊達が着々と攻略し、同盟国として長曾我部が西国を抑えていく。
九州全土を長曾我部が掌握した頃、伊達の侵攻もまた西国まで延びていた。




「毛利、伊達に下れ」
幾度目かの男の訪問。
このとき男はいつになく焦りを見せていた。
「今ならまだ間に合う。領土全部は無理かもしれねえが、ある程度なら俺も政宗に掛け合う」
政宗…ああ、竜の名か。
伊達による侵略が目に見えて迫ってきており、城内にはぴりぴりとした空気が漂っていた。
そこへ伊達の同盟国の主が訪れているのだ。緊張感は否応なしに高まる。
すでに同盟やら協力やらの段階ではない。降伏するか、否か。
「毛利…」
「去れ、長曾我部」
煩い声はもう聞きたくない。
「毛利!」
声を荒げる男を一瞥する。日に当たり輝く銀糸は気に入っていた。
「我は伊達には下らぬ」
苦渋に満ちた隻眼に、胸のすくような気がした。




腹を手で抑える。到底抑えきれるものではない血が手の隙間から溢れていく。
片手で持つ輪刀がいつもよりも重い。持ち上げようにも力が入らない。まだ、戦わないといけないのに。
伊達・長曾我部の連合軍による中国侵攻に一度は耐えれたように思われた。しかし水攻めが始まってから着実に追い込まれていった。悪天候も滅亡へ拍車をかけた。
負けが目に見えた今、それでもあがいているのは何のためか。
震える身体を足が支えきれなくなり視界が揺れる。
ああ、無様にも倒れるのか。
そう思った身体を大きな腕が支えた。そのまま抱き込まれる。
「どうして…降伏しなかった」
己の血で染まる紫の衣をぼんやりと眺めた。
「お前が……っ」

お前が、裏切ったからだ。
四国の主よ。西海の鬼よ。自由気ままな海賊よ。
天下を望まぬお前なら、共に西国の平穏を守っても良いと思った。お前もきっとそう思っていると。
けれどそなたは伊達を選んだ。
天下を望む竜の手を取り、西国を竜へ献上した。


「おま、えが…っ」
裏切った。
いや、己の勝手な思い込みだったと思い知らされた。
込み上げる思いは怒りか嘆きか。


「毛利……」


遠のく意識の中、ただ男の温もりだけを感じていた。






END





桃猫 様からのキリリクの親就で悲恋でした。
でもこれ、元就が自覚してるのかしていないのか微妙ですし…求められたものと何か違うような…。
苦情はいつでも受け付けますので。せっかく頂いたリクなのにこんなのですみません!
桃猫 様に捧げます。リクエストありがとうございました!


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