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キリリク
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その後、件の店員の様子を観察しながら会話を交わしていると、店主が料理を両手で運んできた。

「待たせたね、兄ちゃん達。当店自慢の特製料理だ」

皿の上からは立ち上る湯気と共に食欲を誘う香りが漂っている。
見た目はそんなに凝った様子ではなく、大衆料理といった感じだが、その分温かみがあるように思える。

「まぁ、食べてみな。坊っちゃんが普段食べているような高級な料理じゃあ無いが、味は保証するぜ」

店主に促されて二人は料理を小皿に取る。と、その時他の客があの店員を呼ぶ声がした。

その声につられて店主がそちらに意識を向けたのを見て、二人は目配せを交わす。
そして、櫂斗は先程の計画通り店主に話しかける。

「そういえば、さっきからあの人“薬はどう”とか“大丈夫”とか言われてたんだけど、どこか悪いのか?僕には元気そうに見えるのに…」

「あぁ、アイツか。いや、アイツ自身は病気なんかしてねえよ。病気なのはアイツの故郷のお袋さんだ」

「ふぅん、故郷にいる人のことを心配してるってことは、他の人達も皆あの人と同郷なのか」

櫂斗が突飛な勘違いをして見せると、店主は苦笑しつつそれを否定した。

「いやいや、そうでもねえよ。アイツはこの前突然ここにやって来て“故郷に仕送りをしたいから雇ってくれないか。母親が病気なんだ”って頼み込んで来たんだ。営業中に正面から乗り込んで来たもんで、常連はみんなアイツの境遇を知ってるってワケさ」

「そっか。大変だな」

「ああ。昼は昼で奉公先で頑張ってるみたいだしな。見舞いに帰りたくても雇い主から許しが出ないらしくてな」

それを聞いて樂と櫂斗は視線を交わす。
彼の奉公先というのは今回相談を持ち掛けて来た商人の店のことだ。

しかし、穏やかな人柄の彼は家族も大事にする人物である。奉公人の家族であれ病気となれば見舞品の一つも持たせて看病しに行くよう命じるだろう。

それなのに見舞いの許可すら出さないとはどういうことか…。
むしろ、あの商人は彼が日々この酒場に来ているのは何故かと不思議がり、彼の様子を心配すらしていた。

つまり何らかの形で彼の母親の話は商人の耳には入っていないということだろう。
そうでもなければ、商人が彼の様子を相談してくるはずがない。

そう二人が考えを巡らせた一瞬の空白で店主の意識は男性から逸れたらしい。彼らが小皿に料理を取ったまま箸を止めていることに気付いて早く食べてしまうよう促してきた。

「それはそうとして、早く食べないと料理が冷めちまうぞ。温かいものは温かい内に食べるのが料理に対する礼儀ってもんだ」

他の料理も持ってくる。そう言って店主は一度厨房に引っ込んで行った。

その背中を見送ってから、それまで口を閉ざしていた樂がようやく櫂斗に話し掛ける。

「思ったより簡単に教えてもらえましたね。しかし…」

「ああ。おかしいな。あの人が見舞いの許可を出さないはずがない。むしろ早く帰ってやれと背中を押すだろう」

「ですね。これは報告の必要がありそうです。食事が終わり次第今日は帰って、明日またあの商人から話を聞きましょう」

「そうした方が良さそうだ」

二人の意見が一致し、彼らはとりあえず目の前の食事を片付けることにした。
店主が自慢していただけあって料理の味は確かなものである。

それなりの量があるにも関わらず食が進み、料理はすぐに減っていった。

そして、もうすぐ完食するという程度まで皿の上がきれいになった時、突如大きな音が辺りに響いた。



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