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キリリク
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「そんな場所にそのまま潜入したところで、上手いことカモにされて痛い目見るのが関の山ですよ」

樂は呆れ顔で櫂斗にそう告げ、少し待つように言って奥の部屋に入って行った。

程なくして戻ってきた彼が手にしていたのは、普段から櫂斗が身に付けているものに比べると劣るが普通に流通しているよりは少しだけ仕立てのいい服だった。

そして、彼自身も普段着ているものよりも遥かに簡素な作りで動きやすさを重視した服に着替えている。

「いずれ必要になるだろうと用意していたものです。さあ、まずはこれに着替えてください」

樂はそう言って手にした服を櫂斗に渡すと、高い位置で結んだ自身の長い髪を一旦ほどき、首の後ろ辺りの位置から三つ編みを結い始めた。

「なんでわざわざ着替えないといけないんだ?」

手渡された服をまじまじと見つめつつ、櫂斗が樂に問いかける。

「貴方が普段着ている服は信用第一の商人などを相手にするにはいい印象を与えることが出来ますが、今回のように治安が良くない場所に行くときには逆効果です。あまり品がいい場所ではありませんから、普段の調子で行けば何だかんだと言いがかりを付けられて最悪身ぐるみ全部剥がされる可能性があるんですよ」

そう説明しつつ髪を結い終えた樂は、今度は短刀を取り出して手入れしている。

「だから、ちょっとした変装をして行くべきです。私は師匠と旅をした時にそういう場所には何度か立ち入ったことがありますし、腕に覚えがありますから、貴方の用心棒役です。そして貴方は、好奇心の旺盛な下級貴族のお坊ちゃん。今回のような場合、運が良ければそうして座ってさえいれば欲しい情報を漏れ聞けますよ。その人は店の常連みたいですからね」

そんな樂の言葉に櫂斗は感心を示しつつ、浮かんだ疑問を口にする。

「でも、それが上手くいかなかったら?」

「何度か同じことを続けます。そうすれば顔馴染みも出来ますし、その人と親しくなれば直接知りたい情報を得ることも可能になるはずですよ」

「なるほど。それにしても樂、君がそんなことに明るいとは驚いたよ。師匠と旅に出ることが度々あったけど、そんな経験もしていたんだね」

櫂斗にそう言われ、樂はしみじみと頷いた。

「私も最初は驚きましたよ。まさか神官である師匠がそんな所に立ち寄るなんてね」

「あの方は色々と豪胆なところがある人だしね。僕も初めてあの方を見た時は驚いたよ」

櫂斗もそう言って樂の師匠を思い浮かべる。もし何も知らずに出会ったとすれば、彼が神官だとは露ほどにも思わなかっただろう。

櫂斗がそんな回想をしている間に樂は短刀の手入れも終えてしまい、チラリと櫂斗を見遣る。

「納得していただけたのなら早く服を着替えてください。少しでも明るい内に店に辿り着かないと道に迷ってしまいますよ」

「分かった。着替えてくるよ」

樂の言葉に素直に頷いた櫂斗は、服を着替えるために奥の部屋に入って行くのだった。


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