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キリリク
6


茗の店を辞した後、櫂斗と樂は先ほど通った裏道を使って自分たちの店へと向かっていた。

「それにしても、ずっとこのままではいられませんし、どうしましょうか?」

「ひとまず今日は店で過ごすしかないだろうね。さすがに家に帰ったらこんなことを明け透けには出来ないし、お互いの振りを貫くのも難しいだろう。まぁ、なるようになるさ」

嘆息混じりに呟く樂に対して櫂斗は気楽なものである。

しかし、彼の言うとおり現時点ではどうにも身動きが取れないのも事実である。

「確かにそうですね。今のところ私達に出来るのは状況の整理くらいですか」

「明日になればいろいろ文献を調べることも可能ではあるかな」

「こんな状況に関する文献なんてあるのかどうかすら疑問ですけどね」

それもそうだ、と笑う櫂斗に樂も小さく苦笑を浮かべた。

「ひとまずあの時に何が起こったのか思い出してみましょうか」

「そうだね。場所としてもちょうどいい」

樂の言葉に櫂斗は少し歩調を緩めた。

「最初は大通りを使って茗の店に向かっていたんだったね」

「えぇ。けど普段より道が混み合っていて、裏道を通ることにしたんです」

「そしたら途中で向こうから誰かが走ってきた。ちょうどこの角だったはずだ。その子とぶつかって少しよろめいたところを樂が支えてくれた」

「そうでしたね。相手はすぐに去って行ってしまったから、視界を桃色が掠めていったくらいしか覚えがありません」

「その人の肩が胸あたりにぶつかったから、小柄な人だったんだろう。そしてその後、少し歩いたところで何か丸いものを踏んだんだよ」

「丸いもの?瓶でも転がってましたか?」

体が入れ替わったことか衝撃的で櫂斗が転んだ原因について詳しくは知らなかった樂は、思わず聞き返した。

「いや、そういうものではなくて、何か球状のものだったよ。しかも結構固いものだった。それが足の下で転がって滑ってしまったからああいう事態になったんだよ」

「それで、その球は?」

「分からないな。まだその辺りにあるのかもしれない」

「そうですか…」

それを聞いて、樂はチラリと周囲を見渡す。すると、ほんの数歩離れた先に大通りの方から差し込む光で何かが反射するのが見えた。

もしやと思いそれを取り上げると、それは硝子のような材質で掌の上にちょうど載るような大きさだった。

通りからの微かな光に透かしてみると、ほんのりと赤い色合いをしているようである。

「もしかしてこれですか?」

樂の手にあるそれを見て、櫂斗はそうかもしれない、と頷いた。

「大きさもそれくらいだったような気がするし。他にそれらしい物も見る限りでは落ちていないしね。まぁ、暗いから見えていないだけかも知れないけど」

「こんなものがこれ以上道端にゴロゴロ落ちてたらたまりませんよ。こんな目に合うのは自分たちだけで十分です」

「それもそうだ。それじゃあ、俺たち以外の被害者が出ないようにひとまずそれは持って帰ることにしようか」

渋い顔をした樂の言葉に笑いながら、櫂斗はその硝子玉を持って店に戻ることを提案する。

その言葉に樂も頷き、再び大通りに向かって歩き出した。



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