キリリク
5
「あれ?」
占いの結果について茗と話し合い、結論が見え始めた時、櫂斗がそう呟いた。
どうしたのかと樂がそちらを見ると、何故か髪を下ろした櫂斗が、指に髪が絡まって困り顔をしているのが目に入る。変な絡まり方をして、ほどきたくても引っ張るしかなく痛いらしい。
おとなしくしていると思ったら一体何をして遊んでいるのかと溜め息が零れた。
「何やってるのよ、櫂斗」
隣にいる茗もそう言って呆れた表情を浮かべている。
「人の体で何を遊んでいるんですか」
そう言いつつも席を立って、髪をほどいてやる。というか、元はといえば自分の体なのできちんとしておかないと困るのだ。
ついでに机に放り出してある髪紐を手に取り手早く結び直してしまう。
「どうせ自分では元に戻せないんですから、下手なことはしないでください」
慣れていない人間がこれだけの髪をきれいにまとめるのは難しいはずである。
しっかりと結び目を作りながらまた一つ溜め息をついた。
「いや、ここまで長い髪を触る機会がないものだから、つい」
櫂斗はそんな風に笑って、まだ性懲りもなく髪の先を触って遊んでいる。
そこに、茗が苦々しい表情で声をかけてきた。
「何だか気持ち悪い光景ね」
「茗、気持ち悪いってどういうことだい?」
櫂斗は彼女の言葉に心外だと返事をする。
「ソレ、あなた達は割と普通にしてるけど、私から見れば櫂斗が樂さんの世話を焼いているように見えるのよ。私は普段のしっかりした樂さんと、樂さんに注意されてる櫂斗の印象が強いから、この光景っていうのは非常に見慣れないものであるわけ。だから、とっても気持ち悪い」
「それだと俺が困ったお子様みたいじゃないか。俺だって仕事の時はしっかりしてるよ?」
容赦なくそう言い放つ茗に、櫂斗が不満そうに返すが、茗は首を横に振って答えた。
「仕事の時がどうであれ、私が普段見ているあなた達はそんなモンなのよ」
「付き合いの長い茗さんがそう言ってるんですから、そうなんですよ」
茗の言葉に便乗して樂もそう言うと、櫂斗は諦めたように黙り込む。
拗ねた子供のような櫂斗の様子を見て、樂と茗は視線を合わせて互いに苦笑した。
しかし、茗はそれだけには留まらず、悪戯っぽい笑みを浮かべて更に言葉を重ねる。
「それにしても、さっきの樂さんは櫂斗の姿をしてるにも関わらずなかなか真剣な表情が格好良かったわ。櫂斗、樂さんがあなたの体を使っている間に振る舞い方を見ておきなさいよ。樂さんみたいに落ち着いた対応ができれば、中身はあなたでもお客さんからのウケが良くなるんじゃない?」
「俺まで樂みたいだったら堅苦しすぎて、お客さんが緊張しちゃうと思うよ」
櫂斗はそう言ってプイッと顔を背けてしまう。
そして、それを見た茗にますます子供みたいだと楽しそうに笑われてしまうのだった。
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