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キリリク
9


「櫂斗様!」

地面にぶつかる衝撃を感じて目を閉じた櫂斗は、樂に名前を呼ばれて目を開いた。転がった時に咄嗟に体を丸めたため大きなケガはないが、服に保護されていない手や頬を少し擦りむいたらしい。ピリピリとした痛みを感じた。

自分が飛び出した後に何が起こったのかを把握しようと、櫂斗が辺りを見回すと、ごく近い位置に男が持っていた棒と、その男本人が転がっていた。見たところ男は意識を失っているようだ。

しかし、自身は飛び出した時の勢いでその場に転がってしまい、目を閉じていたのでどんな経緯でこのような状況になったのかが全く分からない。

転んだ時の痛み以外は感じていないため、自分は殴られていないようだが、それならば彼は何を殴ったのか。そう思い至った瞬間、櫂斗は勢いよく樂の方を振り向いた。

「樂!ケガは?」

「私は大丈夫ですよ。それよりもあなたの方がケガをしているじゃないですか」

そう言って樂は櫂斗のケガを確認するように彼の近くにしゃがみこんだ。

その様子は確かに何事もなさそうだが、それならばあの時男が振り上げていた棒は何を捉えたのだろうか?明らかに何かを殴ったような音がしたのは気のせいだったのか。

そんな疑問が顔に出ていたのだろう。地面に転がる棒と男に視線を向けつつ、樂が苦笑しつつ事の顛末を教えてくれた。

「あなたが飛び出してきたことで彼が驚いて、狙いが外れてしまったんですよ。彼は地面に対して棒を打ち付けてしまい、その衝撃で棒を放してしまったんです。そして、その時出来た隙を狙って少しお休みいただいたんですよ」

それはつまり樂が何かしらの手段を講じて彼の意識を失わせたということだろう。

「ケガがなくて良かった」

ホッとして思わず笑みを浮かべた櫂斗だが、対する樂はムッとした表情を浮かべて櫂斗の頬を軽く引っ張った。

「全然良くありません。店にいるように言ったのに何で飛び出して来たんですか。あなたがケガをしていたら私が付いている意味が無いじゃないですか」
「いや、これは僕が勝手に飛び出して転んだだけだからいいんだよ」

「良くないですよ。今回は相手の手元が狂ったから助かったものの、そのまま殴られていたら大怪我をしていたかもしれないんですよ?」

「でも、結果的には殴られなかったからいいじゃないか。それに、あのままじゃ樂に当たっていたかも知れないんだぞ」

「結果的にはね。でも、別にあなたが飛び出してくる必要はなかったんですよ。私は一応彼の気配を感じていましたし、万が一殴られた場合も私とあなたでは鍛え方が違うんですから、あなたが殴られるよりは被害も小さいんです」

「仕方ないじゃないか。危ないと思ったらもう体が動いていたんだから」

不満そうに櫂斗がそう告げるも、樂は呆れ顔だ。

「あなたはもっと何事にも動じない精神力を身につける必要がありますね」

そう言って樂が大きな溜息をついたところで、背後から声が掛った。

「兄ちゃん達、言い合いはそれぐらいにして先に坊ちゃんの傷の手当てをした方がいいんじゃないか?ホラ、店に入んな」

そう言って樂の肩を叩き、櫂斗に手を差し伸べたのは酒場の店主だった。その言葉に、樂は改めて櫂斗の傷口を見る。確かに地面に転がったせいで土が付いているそこは、早く洗ってきれいにする必要があるだろう。

「そうですね。さあ、坊ちゃん中で傷口を洗わせてもらいましょう」

そう言って樂も櫂斗を促す。櫂斗もその言葉に大人しく頷いて、もう一度酒場に足を踏み入れたのだった。

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