[通常モード] [URL送信]

霧中の桃華
ハロウィン翌日の朝


ペシペシ…何かを掌で叩いているような音がKAITOが通りがかった部屋から聞こえた。

何の音かと開いたままの状態になっている扉から中を覗くと、リンがふてくされた顔で頬杖を付きながら、ペッタリとした仕様の某人気ゲームの黄色いネズミ型ぬいぐるみを叩き続けていた。

目の前のパソコンでは、彼らがいつもお世話になっている動画サイトが開かれ、ハロウィン曲が再生されている。

どうしたのか尋ねるためにKAITOが部屋に入ろうとすると、後ろからマフラーが引かれて一瞬息が詰まった。

何事かとそちらを振り向くと、レンがマフラーの端をしっかりと握ったまま、部屋には入るなと身振りで示している。

訳が分からず首を傾げたKAITOについて来いと示すように、レンはマフラーを離さず別の部屋へと向かう。

自身の状態に散歩中の犬を重ね合わせて少し切ない気持ちになりながらも、KAITOは黙ってそれに従った。

部屋に入って扉を閉めたレンは、開口一番KAITOに忠告する。

「今はリンに話しかけない方がいいよ」

「何か機嫌悪そうだったよね。何かあったの?」

尋ねるKAITOにレンは微妙な表情を浮かべた。

「何かあったというか、何も無かったからというか…ホラ、昨日ってハロウィンだったじゃん」

「あぁ、そういえばそうだね」

「しかも、あの人のバイトって昼には終わってただろ?」

何故そこで家主の話が出てきたのか疑問に思いつつも、KAITOは黙って頷いた。

「あの人って少し前はオレたちの仮装考えたりしてハロウィンにすごく乗り気だったから、リンはあの人がバイト帰りにお菓子か何かを買ってきてくれることを期待してたらしいんだよ。でもあの人、帰ってきたら寒いとか言って毛布に潜ってそのまま寝てただろ?」

「あ〜、雨降ってたから自転車乗ってて腕とか足とか濡れたって言ってたね」

「そう。しかもそのまま夜まで起きなかった」

それを聞いて、KAITOはリンの不機嫌の理由に思い当たった。

「…もしかしてそれで?」

「正解。リンは"Trick or Treat"をやりたかったらしいよ。お菓子を買ってきてくれなかったにしろ、そうやってハロウィン的に構って欲しかったのに、それすら出来なかったからああやって拗ねてるわけ」

「あ〜なるほど」

"俺は仮装に関してすらノータッチだったんだけどな…"
KAITOはそんな悲しい気持ちを抱きながらも、それを言うのは大人げないだろうと口に出さず思うまでに留める。

先程リンが叩いていたぬいぐるみは暇をもて余したKAITOがリン達のハロウィン用衣装に使われた布の余りで作ったものであることももちろん内緒である。

「そんな感じでかなり不機嫌だから少し放っておいた方がいいと思う。じゃないとあのぬいぐるみで殴られるよ」

そう言ってため息をついたレンにKAITOは笑顔を浮かべた。

「そういうことなら大丈夫。すぐにリンちゃんの機嫌も直るんじゃないかな?」

今度はそれを聞いたレンが首を傾げる番である。

「何を根拠に?」

「まぁ、見てなよ。リンちゃんの所に行こう」

そう言ってKAITOは部屋を出ていく。腑に落ちない部分はあるが、とりあえずレンもそれに続いた。



[*前へ][次へ#]

8/9ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!