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――陰陽師にはならないから……

そう両親と祖父に伝えた時、彼らは何も言わなかった。もしかしたら、何かを感づいていたのかもしれない。
その日から、成明は安倍の家の者として陰陽の術を駆使する事はなくなった。


◇     ◇     ◇


「結局、バイトも代わって貰ってしまった……」

制服姿で家路を行く成明は、ため息と共に額に手を当てた。
熱はない。しかし、鈍く繰り返す痛みは治まる事はない。
部活は颯緋の配慮もあり本当に軽く動いただけだ。夕方からアルバイトもあったのだが、これも成明を心配した颯緋が代わってくれた。このままでは周りに迷惑をかけつづける事になるので、内心渋々、家に帰って休む事にしたのだ。
元来成明は人に迷惑を掛ける事や頼る事を苦手としているので、些か居心地が悪い。

『だから最初から休めと言っただろう』
「返す言葉もない」

成明を心配し、隠形して付いて来た勾陣の言葉から、彼女がどんな表情をしているか予想できる。きっと呆れの混じった顔でこちらを見てる事だろう。

『だいたい、お前は……なんだ?』
「どうかしたのか?」

言葉を切った勾陣は、安倍の家とは違う方向へ視線を向けている。

「勾陣?」
『いや、気の所為だったようだ。視線を感じた気がしたのだが』
「視線……」

十二神将たる勾陣が一瞬でも感じたのなら、それは間違いなくこちらに向けられていたのではないだろうか。それに、成明には思い当たる節があった。
昨夜、自宅へ帰る途中で『何か』の気配を感じたのはちょうどこの辺りだ。

『気になるなら調べるか?』
「……いや、大丈夫だよ」

安倍の陰陽師でない自分が神将の手を借りるなどあってはならない。
気にならない訳ではないが、昨夜放った式が調べてくれるだろう。
勾陣に笑いかけると、成明は止めていた足を動かした。

成明が陰陽師として動くのは、あくまでも『自分』の為でなければならない。
それが、己に課した誓約だから。


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あきゅろす。
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