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どうして。
どうして……。
だんだん近づいてくる声は、聞き覚えもなく、姿も見えず。
水に沈んでいくような苦しさだけが支配していく。
溺れた様な苦しさに耐えていると、不意に女性の声が耳に届いた。
「な……あ…き………」
その声と共に身体が意志とは関係なく揺れる。導かれる様にして深淵から意識が浮上していく。
「うっ………」
物凄く重い瞼に力を込めれば、黒曜の瞳が心配そうにこちらを見ている。
何度か瞬きを繰り返した後に、いつもの調子で笑みを作って見せる。
「おはよう、勾陣」
「全く、お前は……」
呆れた様に息をついた勾陣だったが、いつもより表情が硬い。どうしたものかと思いながら、身体を起こせば、鈍い痛みが脳内を駆け抜ける。思わず額を押さえた成明の背を勾陣が支える。
「大丈夫か?」
「あぁ、ちょっと頭痛がしただけだから」
大丈夫だと告げようとしたが、頭痛は治まる気配がない。
「……昌浩達がもうすぐ家を出るんだが」
見送りにでるかと問われ、勾陣が自室に来た理由を知る。中々、起きて来ないこと事態が珍しいのに、見送りに出て来ないなんて普段の成明から考えれば、おかしなことなのだ。
「すぐに行くよ」
「わかった」
とりあえずは重病でもないと判断した勾陣は、そのまま部屋を出て行った。それを確認して、ゆっくりと立ち上がる。なるべく急激な上下運動を避けながら、手早く着替えを済ませる。
「顔色は……まぁ、大丈夫かな」
頭痛以外は全く問題がないので、余計な心配をかけてせっかくの外出が楽しくなくなってしまうのは申し訳ない。
「せっかく、久しぶりの泊まりがけの外出なんだしな」
いそいそと準備をしていた弟の顔を思い浮かべながら、成明は皆がいるであろう居間へと向かった。
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