V
学校までは颯緋と共に自転車での通学だ。帰りも一緒の事が多く、颯緋とは彼の家の近くで別れる。最近では滅多に体調を崩さない成明が見せた変調を心配した颯緋が、流石に一人では危ないからと家まで同行を申し出てくれたが、大丈夫だと断った。
寝不足で立ちくらみを起こしただけで、成明にしてみれば大したことはないのだ。
「まぁ、颯緋の家から5分とかからないしな」
帰ったら今日は呪いでも施して、さっさと寝てしまえばいい。
そんなことを考えながらペダルを踏んでいた成明は、ふと異変を感じて自転車をとめた。
「なんだ?」
視線を感じた様な気がしたのだが、意識を巡らせても何も異変は見つけられない。
「気の所為……か?」
念のために式を飛ばそうかとも思ったが、ここは安倍の家に近すぎる。
あまり家の近くで力を使いたくはないのだが。
「背に腹は変えられないしな」
制服のポケットから符を取り出すと、八咫烏の式に変えると更に目隠しの呪を念入りに施すと、空へと離した。
「……帰るか」
気の所為であればいい。だが、夢の事もある。
そんな事を考えながら、再び自転車を走らせれば、すぐに自宅の門が見えてくる。
自転車を停めて玄関の引き戸を開ければ、そこには今まさに帰る所であろう少女と見送りに出る弟の姿があった。
「こんばんは、彰子さん。ただいま、昌浩」
「兄上、お帰りなさい」
「こんばんは」
「昌浩が送るんだろうけど、気をつけて帰るんだよ」
優しいお兄さんよろしく、左右にヒラヒラと手を動かして二人を見送ると、履いていた靴を脱いで下駄箱に入れる。
「成明や、帰ったか」
「ただいま戻りました」
居間にいた晴明と勾陣に帰邸の挨拶をすると、そのまま晴明の扇子がテーブルを挟んだ反対側に向けられる。
その意を汲んだ成明は大人しく晴明と向かい合う様にして座った。
「どうかしましたか?」
「明日からの連休についてなんじゃが」
「あぁ、確か昌浩達は出かけるんでしたよね?」
「わしも出かける事になってな。残った神将と共に留守を頼むよ」
断る理由もなかったので成明は素直に頷いた。
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