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女房に案内されたのは西対屋だった。

「お待ちを」

南廂で待つように言われ、腰を落とす。御簾の向こうで影が動く様子を何となく見ながら、周囲に注意を向ける。

「特に気配はしないな」

御簾と蔀の向こうに人がいるので、目で応じるだけにする。

『念のため屋敷の中を見回って来ようか?』

勾陣の言葉に、少し考えてから頷く。すると、そのまま勾陣の気配が遠退いていく。

妖に当てられたとか、呪詛とかではないので、本当にただの病なだけだろう。
いくら祈祷や病平癒を行ったとしても、それは術者の腕次第。

「お待たせいたしました。どうぞこちらへ」

通された姫の部屋は、派手過ぎない装飾が施され、持ち主の品の良さが伺える。

「姫さま、お連れしました」

御帳台から弱々しい声が聞こえて来る。声色から判断するに、あまり良い状態とは言えない。
病平癒をと望まれたが、直接容態を診た方が良いかもしれない。

「女房殿。姫さまのご様子を伺ってもよろしいか?」

遠回しに言ったが、御帳台に入っても大丈夫かと問うたのだ。さしもの言葉に、女房も表情を曇らせる。

「帳を外して頂くだけでもかまいません」
「失礼ではありませんか。他の陰陽師はその様なことは行いませんでしたよ」
「おい、どうするつもりなんだ?」

雲行きが怪しくなってきた事を心配する騰蛇の声に、大丈夫だと視線を向ける。

「私は薬学を心得ております。平癒の呪いを施す前に、御容体を診せてはいただけませんか?」

薬師であるとの言葉に、目を吊り上げていた女房の表情が一変する。

「では、こちらに」

仕える姫が良くなるならばと受け入れてくれた女房に感謝しつつ、外された帳から姫の側に腰を降ろした。



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あきゅろす。
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