3
「安倍家の使いで参りました」
出てきた雑色にそう伝えれば、一発で中に通された。
のだが……。
「予想を超えない連中だなぁ……」
決して周りには聞こえない程の声量で呟く。
安倍家の者だと言う事で雑色は嬉々として迎え入れた。しかし、いざと言う時になって晴明でも陰陽寮に通う昌浩や吉昌でないことに佐竹が不満を漏らしたのだ。
実際に聞いていないが、漏らしたに違いない。
「帰っちゃおうかな……」
ただでさえ佐竹には良い印象が無いので、思わず半眼になってしまう。
「お前、そっちが素か?」
「……自動切替なんです」
基本的には丁寧なつもりだ。
中でも安倍家の者には敬語を崩すつもりはないのだが、その他に対しては時と場合による。
「……それにしても」
意識を屋敷内へ向けるが、これと言って悪き物の気配は感じない。
「退魔調伏以外だとしたら、何の用なんでしょう?」
『呪詛の類だったりしてな』
「そしたら、その瞬間帰りますよ」
佐竹重徳の為に手を汚すなどと以っての外だ。
「………あれ?」
感覚に引っ掛かる物がある。ほんの僅かに。ともすれば気づかない程の。
『どうした?』
「………声が…………」
呼ぶ声がする。
前回来た時は、屋敷には意識を向けなかったから気づかなかった。
「また、何かやらかしたんじゃないだろうか……」
佐竹の性格だ。
弱者は容赦なく踏みにじってしまうに違いない。
再び、助けたくない衝動が沸き起こり始めた所で、ようやく呼び出した張本人が登場した。
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