4 「なんだ? 騒がしいな」 「揉め事みたいだね」 「道を変えるぞ。面倒だ」 「そう言うなよ」 わしゃわしゃと頭を撫で回してご機嫌をとると、人の流れに乗って騒ぎの中心へと近づいていく。 既に人だかりが出来ており、言い争う声が聴こえてくる。 「お願いだよ!」 「何度言われたって無理だ。金のない奴には売れんな」 「お金はがんばってよういします。だから、お薬をください」 小さな女の子と少年が、体躯のよい店主に必死に頭を下げている。 周りからは野次にも似た声が飛び交っており、一触即発の雰囲気だ。 もちろん、この時点で首を突っ込むことは決定済みだ。 あの位の子供が困っているのを見過ごせる程、器用な人間ではない自覚はある。 「だから嫌なんだよ」 「はいはい」 とりあえず事態を把握するべく、近くにいた人当たりの良さそうな老婆に声をかける。 「あの、どうかしたのですか?」 「あぁ、昭一さんのとこだよ。ここ毎日いつものようにああなんだよ」 老婆曰く、あの少年と女の子は兄妹なのだそうだ。貧しい家の子で、本来ならこのような市に来たりはしない、その日暮らしがやっとのような。 そんな時、父親が重い病に臥してしまった。本来なら薬があればよくなる病なのだが。 老婆の話を一通り聞き終えた頃、騒ぎの中心で一際大きな声が上がった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |