3 「で、どこ行くんだ?」 「ん〜? あっちかな? あ、でもこっちかも」 「はっきりしろ!」 こうしていると思うのだが、傲越の声が徒人にも聞こえたりしたら、だいぶ精神衛生上よくないのではないだろうか。 「その前に、姿を見ただけでも大変な事になりそう」 見た目は山犬や狼に似ているにしても、三房の尾や鋭い牙なんかを見たら、妖怪でしかない。 「何か文句がありそうだな」 「いや、別に」 「まぁ、いいけどよ。本気でどこに向かってんだ? たしかこの先は市だろ」 「三条の市か」 「買い物とか言ったら、一瞬で消してやる」 「流石にそんな冗談は言わないよ」 身の危険もあることだし。 「ずっと呼んでる気がするんだ。よく聴こえないけど」 音としては聴こえないが、魂に響く感覚がある。 「なら、呼んでんだろ。お前のそのよくわかんねぇ能力は、外れた事がないからな」 「……よくわからなくて悪かったな」 幼い頃から時々あったのだ。誰かに呼ばれている気がすることが。 「あの頃は水面の世界でしか聴こえなかったけど。これは仮にも血を引いているからなのかな……」 陰陽師には声なき声を感じる事の出来る術がある。 力のあるものなら夢や直感で、そういった類のものを察知することが出来るのだ。 「安心しろ。お前には才能はないぞ」 「そうですね。とにかく、三条の市の中を歩いてみよう。たぶんここにいるんだ」 何かしらの理由で『だれか』を呼んでいる誰かが。 [*前へ][次へ#] [戻る] |