9 最初に道長の所に案内してくれた女房は、伝言の役割をしっかりと果たしてくれた。 道長からの返答を持って帰ってきた女房に礼を言うと、後の事を真子に任せて、渡殿を進む。 『本気でやるのか?』 「気乗りはしませんけどね」 自らの手の内にあるのは、華やかな桜の花弁が描かれた扇。 広い庭から、笑い声や談笑が聞こえてくる。 先を行く女房が合図を出すと、そこに雅楽の音色が響き渡る。 その音に乗って、身体は動き出していた。 開かれた扇は美しい弧を描き、踏み出す足は独特のすり足で。 扇を左から右へ流し、身体の向きを変れば、袂は風に乗ってひらめく。 その様子を遠目に見ていた神将たちは、意外な一面に笑みを称えていた。 『まさか、姫が目覚めるまで、自分が舞って時間稼ぎをするとは』 道長への伝言は、姫の中に、緊張してしまっている者がいるので、自分が最初に舞を披露しても構わないかというもの。 二つ返事で了解を得た後、真子に姫達が目を覚ましたら、連れて来るように頼むと、自分はさっさと支度を整えたのだ。 『本当に驚きました』 『俺もだ。やはり、まんざらではなかったようだな』 本人が聞いたら、頭を抱えそうな言葉に神将たちは笑みを深くした。 [*前へ][次へ#] [戻る] |