4 帰りたい、やりたくないとはおもっていた。 でも、あえてもう一度言おうと思う。 帰らせてくれ! 「なんて、大声で叫べたら幸せなんだろうけど……」 周りに聞こえない程の呟きは、神将たちの耳にだけ届いて消えていった。 三人とも隠形しているので姿は見えないのだが、笑っているか苦笑しているかのどちらかだろう。雰囲気で。 控えの間に集まってきた貴族の姫たちは、普段あまり自らの屋敷から出ない事もあり、あれやこれやと尽きない話しに華を咲かせている。 室内にいるかぎり、自分も例外ではないわけで……。 「そのお衣装、とても似合っていらっしゃっいますわね」 「ありがとうございます」 正直言えば、衣装を褒められても嬉しくない。むしろ、似合っていたらまずいだろう。 なによりも、自分自身、女性は苦手な嫌いがある。 自覚している分、苦手意識が先行してしまうのだ。 そうとは知らぬ姫は、興味津々と言った様子でこちらを見てくる。 「あら? なんとお呼びしたらよろしかったのかしら?」 「……そうですね。あきう、秋保と申します」 とっさに思い付いた名を言えば、満足したのか、その姫は違う姫に話し掛けている。 どうせなら女房としての立場の方が、楽に動き回れたのに。この期に及んで、自分も舞に参加しろなどとは言われないだろう……たぶん。 『それはそれで面白いけどな』 他の者には聞こえない声が脳裏に響く。長い付き合いから、考えている事を読んだ傲越だ。 『奴らへのいい土産話になるじゃねえか?』 冗談ではない。 仕事が終わったら真っ先に傲越に口止めをすることを誓い、したくもない会話に付き合うのだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |