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交錯する願い




『……ねえ、今日もダメなの?』


病室のベッドに、うずくまるように座るあたし。


「駄目です。」


そしてこの部屋の大魔王(←勝手に命名)こと、看護婦長さん。

あの日、外へ飛び降りたときにいつの間にか傷口がぱっくりと開いてしまっていた。
すぐに治癒が始まっていて全く気づかなかったが、病室に戻った瞬間に婦長さんにきづかれたのだ。

あれから一切の外出を禁止され、“あれ”も中止。
婦長さんの恐さには逆らえないのか、研究員たちも大人しく従っているらしい。



―ごつんっ…―

『…っい……』

「誰が大魔王ですか。
いいわね、お・と・な・し・く、してなさい。」

『(…心を読まれたっ!?…)』

「返事は?」

『…はーい。』


よろしい、と言って病室を出て行く婦長さんの握り拳には、さすがのあたしも外出を諦めざる負えなかった。

地味に痛む頭をなでつつ、思う。


『(イノセンス…早く会いたいよ)』






++



「ただいま、アナ。」

『っ、カズ!』


なにをするでもなく、ただぼーっと窓の外を眺めていれば、突然すぐそばで声をかけられた。
ドアが開く音もなにも気づかなかったから、可笑しいくらいに肩がびくつく。



「ははっ、どうしたのそんなに驚いて」


たった数日、でも長かった。
カズの笑顔が近くにあるのが無償に嬉しかった。

たくさん話をしたくて、でもまずはあれを言いたい。



『おかえりなさいっ、カズ!』






お互い1人だったときのことをたくさん話した。

カズは今回、任務で中国まで行ったらしい。
中国の代表的動物“パンダ”だとか、あたしの顔ぐらいある肉まんなる食べ物だとか、いつもカズはあたしの知らないことを教えてくれる。



『今回は何の任務で中国に行ったの?』


何気なく聞いたことに、一瞬カズの顔が歪んだ気がした。
でもそれも一瞬のことで、見間違いだったかのようにすぐに笑顔になる。



「中国に、イノセンスと適合した子がいてね…
なかなか黒の教団に来るのを了承してくれなくて、少し手こずったよ。」

『イノセンスと…適合…』


それを聞いた瞬間、なんだか胸のあたりがひやっとした。

仲間が1人増えたね、なんてにこやかに話すカズはあたしの一瞬の変化に気づかなかったみたいだ。

それでいい。
だって神の使徒(エクソシスト)が増えることはいいことだから。
たとえあたしが、選ばれなくても…いい、ことなんだ。






この時、カズがあたしの変化に気づかないように、あたしもカズの変化に気づかなかった。

いつも優しいカズの心に、まだ小さな、でも確かな狂気が生まれていたことに…



++++++


■side カズ■


神に願ったことがある。
たしかそれは、世界の平和だった気がする。

でも今、もう一度願うとしたら…
きっと、アナの幸せを願うだろう。


イノセンスとのシンクロ実験なんて苦難の中で生きるアナ。
それでも、俺に向けてくれる小さな笑顔が、無償に愛しかった。



今回、中国でアナと年の近い1人の少女が、イノセンスに適合した。

俺たちは彼女を保護の名目の元、実際には戦争の道具とするために迎えに行ったのだ。


罪悪感がないわけじゃない。
家族と離れ離れになったのだ、辛いだろうことはわかる。

でも、俺にはそれだけだった。



アナだけが、苦しむなんて許さない。
それに、たくさんエクソシストを見つければ…


「(アナがあの実験から、解放されるかもしれない…)」

『カズ、どうしたの?』


無言の俺を心配したのか、こちらにアナの小さな手がのびてくる。
それを受け入れつつ、まだまだ小さな体を抱きしめた。



「(必ず、この檻から助け出す。)」

『…カズ?』

「アナ、好きだよ。」


そう、俺は愛しいこの子が幸せならそれでいいんだ。
他の誰が苦しもうと、構わない。



『あたしも、カズが大好きだよ!』


俺の背に回された小さな手が愛しくてしかたない。



「ありがとう。」


だからまだ、

イノセンスなんかとシンクロしないで…





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あきゅろす。
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