三匹目

 大佐は兄さんが好きだ。
 何というか、特別に懐いている。あれは『好きだ』という言葉以外では表せない感じがする。
 兄さんが出かける日は、僕が大佐と留守番をしている。留守番というよりも、大佐を見張っているから出かけられないという状態なんだけど。
 最初はいつも通り、日向ぼっこしたり昼寝したりして過ごしてる。でも、気がつくと大佐は、窓辺で外をじっと見ている。また小鳥でも眺めてるのかなと思ったけど、視線は玄関の方面から動かない。
「大佐。まだ兄さんは帰ってこないよ」
 声をかけても頭を撫でても、大佐は気が済むまで動かない。その癖、兄さんが帰って来ても迎えに行くのは時々だ。何なんだろうな、この距離感は。猫は気紛れだから、全てを知ろうとしても無駄だとわかってはいるんだけど。

 この間、ちょっとした事件があった。
 夜、眠るときに、僕と兄さんはリビングで過ごす。兄さんはソファーで毛布をかけて寝て、僕はまあ適当に。大佐は猫だけど体は大人なので、寝室で寝かせていた。何時ものように、僕はキッチンで本を読んだり、大きな音を立てて兄さんを起こさないようにじっと過ごしてたりする。
 あれは真夜中過ぎた頃だったろうか。大佐がやって来て、兄さんの眠るソファーの下で転がった。
「大佐、風邪引いちゃうよ?」
 僕の言葉には反応せず、移動する気配がない。仕方ないのでその夜は毛布をかけてやり、朝まで過ごした。
 夜が明けて、怒ったのは兄さんだ。だって、いつの間にか大佐は足下の床で縮こまっているんだから。
「大佐!ちゃんと部屋使わしてやってんだから、ベッドで寝ろよ風邪引くだろ!。言うこと聞かない奴は捨てるぞ」
「兄さん、そこまではっきり言わなくても」
大佐はすごくしょんぼりして、黒い耳をぺたりと後ろに垂らして、きゅっと目を瞑って小言をやり過ごす。
 でも次の日もそのまた次の日も、何度怒っても兄さんの足下で寝るため、兄さんがベッドで眠る事にした。
 そうしたら、兄さんが寝ているベッドに大佐が潜り込んだ。目覚めた兄さんが驚いて叫んで、その声に驚いた大佐がベッドの下から出て来なくなるという事件にまで発展してしまった。
 今、兄さんと大佐は一緒にベッドで寝ている。仕方ないのかな、猫は人の所で寝たがる生き物だし。僕はちょっと寂しいけど、なんだか邪魔しちゃいけない気もしてる。

 そんな大佐だけど、僕に対しても変化はあった。
 まず、朝起きると一番に僕を確認しに来る事。兄さん曰わく、僕も同じ部屋にいて寝るのがベストだそうだけど、退屈なのでそれは遠慮しておきたい。鎧が立てる金属音も前ほど怖がらなくなった。稀に僕に寄りかかって昼寝してる時もある。これはちょっと、いや、かなり嬉しい。
 兄さんが言うには、僕が帰ると大佐は必ず出迎えにすっ飛んで行くそうだ。可愛いところもあるじゃないか。
 兄さんがいる時の大佐は、付かず離れず、少しの距離を取って過ごしている。大佐は大佐なりの、猫としての人付き合いがあるのかなと、今は納得している。




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あきゅろす。
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