二匹目

 晴れた日は、日の当たる所に長々と寝そべって昼寝している大佐。シャツとズボン姿で、靴下ははかない(猫だから)。午前中はリビングが、午後は二階の寝室がお気に入りだ。
 光を浴びて、黒い頭と耳の縁が白く光る。暫く動いていないが、あれは今、すごく熱を吸収していると思う(黒いので)。
 やっぱり熱くなったらしく、ごろりと寝返りを打って日陰へと逃げる。男の体格は決して細くはない。猫と思わなければ、具合が悪くてぶっ倒れたようにしか見えなくて危険だ。俺はソファーで文献を読みつつ、時々大佐を観察している。
 大佐の耳としっぽは、気持ちに合わせて動く。でも神経が本当に通っているかはわからない。触ると中に芯がないんだ。毛がみっちりして形作られている感じがする。多分これは疑似耳?と疑似しっぽなんだと思う。だって、本来の耳はちゃんと横についてるし。感情表現がそちらに行ってしまったのか、前より表情が乏しくなったようだ。それがどういう風に関係してるかはわからないけど。
 まあでも、猫だから仕方ないと思う他に、今は手立てがない。
 最近、俺が理解し始めた猫らしい所と言えば、大佐は高い所が好き。狭い所が好き。大きな物音が嫌い。肉が好き(前とどれくらい違うかは不明)。などなど。まあそれくらい。 

 大佐は猫なので仕事は休んでいる。自宅療養中という事にしてあると中尉が言っていた。時々、すごく重要な案件だけ書類にサインを貰いにブレダ少尉とかがやって来る。
 大佐は書類一枚くらいならちゃんと読んで理解して、サインくらいは書けるんだ。しかし、それ以上は飽きてしまい話にならない。あまり強要すると逃げてしまう。
 こないだなんて、二階の窓から屋根に逃げて、落ちかけて大変だった。大きさと体はただの人間なんだから気をつけて欲しい。

 「大佐。熱いのか?」
 床で寝返りを繰り返す大佐に声をかける。気だるげにこちらに顔を向けて、寝転がったまま俺を見ている。しっぽがぱたん、ぱたんと緩く動く。
「熱いならこっち来ればいいのに」
 ソファーの反対側をポンと叩いて見せるが、お気に召さなかったようだ。再び日向に寝返り、強い光を浴びている。熱いんじゃなかったのか、そこ。でも、大佐はずっとデスクワークばっかりだったから、少しは日焼けするくらいがちょうどいいかもしれないと思い直した。
 大佐が板の間に寝てると、寒そうだし服も汚れるから、大きめのラグマットをアルに買ってきて貰おう。あいつが戻ってくるのは夕方頃だ。そのあたりに洗濯物を取り込んで、夕飯の支度をしよう。
 俺はまた文献に視線を落とす。外は良く晴れてて、風も穏やか。
 時間は嘘のように静かに流れていく。
 
 

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