夏は暑いし大佐はエロいし。3
数メートルしか移動しないのに、繋いだ手が熱くて緊張が伝って移る。まだ、小さな手。子供の手。これを相手にするのだと思うと、責任感に若干気持ちが落ちそうになる。相反して、早く顔が見たい。彼に触れたい。そんな気持ちを抑えられない自分にも、申し訳程度に反省しているのだが。
ドアをあけると、暗い室内に鋼のが立ち止まる。
「明るい方がいいか?」
「いや、これでいい」
小さな明かりが一つ、足元を照らすが、目が慣れないと暗がりにしか感じない。
手を引いて、鋼のをベッドに座らせる。大人しくされるがままの相手は、らしくなくガチガチに緊張している。
「なあ、鋼の。私を相手にしたいと言ったよな。男の私相手でも勃つとも」
「そうだけど」
「じゃあ、好きなようにしてくれたまえよ」
「何それ。協力しねえって事?」
「違うよ。君の欲を優先させてやりたい。わざわざ私を待ってまで誘いに来た、そこまで君を駆り立てた欲だ。少しは尊重してやる。まずは、好きなようにして良いよ」
ごろりとベッドに横たわる。さあ、お手並み拝見と行こうか。
彼に向けて手を上げ、煽るように指先で招く。鋼のは少し考えてから、私の腹の上を跨いで座った。
そっと顔を近付けると、被さるように唇を重ねて来た。何度も何度も、重ねるだけのキスを繰り返す。そのうち舌を伸ばして、私の唇を舐めてなぞりはじめる。
(…なるほどな。)
もう、この時点で色々焦れったいのだが、約束した手前もう暫くは我慢しなければならない。
鋼のは体を起こすと、次はぎこちなく私のパジャマのボタンを外し始める。上から順番に、丁寧に一つずつ。
「くそっ」
鋼の指が、ボタンに当たってカチカチと鳴る。なかなか外せないらしく、小さな舌打ちが聞こえる。
「外そうか?」
「あんたは大人しくしてろ」
ボタンを外し前を大きく広げると、鋼のは頭を下げて胸元に唇を落とす。直に肌を舐めては、左手で唾液を拭い撫でる。胸板を、腹筋を。古傷までも見つけては、猫のように舌を這わす。
そのうち、手は腹を伝って私の股間へ。布の上から、不器用に撫でさする。
「何か手助けは必要?」
「うっせえよ、尊重すんだろ?黙ってろ」
形を確かめるように触っていた手が、ズボンと下着をどうにか下ろそうと躍起になっている。腰を浮かしてやると、なんとかズボンはずり下げる事に成功し、今度は下着の上から手でさする。
このまま、舐めるんだろうなあと思いながら、彼の動向を見守る。案の定、体を脚側に移動させ、下着をずらしてぺニスを外へ出すと、唇を寄せてきた。
幹に先端にキスを繰り返す。おっかなびっくりに舌が這う。
「…っふ、は…」
微かに漏れ聞こえる吐息が悩ましい。彼が触れる中心に、判る位にやっと熱が集まる。
「ん、ん…」
先端が熱い口内に含まれる。ぬるぬると舌が動く。鋼のの口が柔らかくて熱くて、一気に反応してしまう。
「っは、こんな、なった」
鋼のが嬉しそうに呟く。本当に、まるで子供なのだ。性行為もキスも、十分な経験の無い思春期の子供。知識と好奇心だけが先走り、背中を押しているのだ。
さて、ここからが本当の選択。するか、しないか。鋼のと関係をもつか持たないか。彼の答えは一つだろう。私はまだ、今ならまだ、引き返す事はできるが。
「…何、考えてんだよ」
鋼のが私のペニスを握ったまま、不機嫌にこちらを睨んでいる。目はすっかり暗闇に慣れたが、それは相手も同じ事だ。しまった油断していた。
「俺は、止めないからな」
思考を読み取るように、鋼のが釘を差す。再び舐めようと頭を下げるので、脚を軽く立てて股間を下から押す。
「…っ!!」
刺激に動きが止まる。手が中心から離れたので、上体を起こして丸く白い頬を撫でる。上を向かせて鋼のの行為を中断させる。
「本当に、いいのか?」
「あんた往生際が悪いぜ」
「そうじゃない。この先、何をされるか具体的に解っているのか?。男同士のセックスの知識はあるのか」
「少しは。でも、知識は関係ねえ。やっぱり大佐は俺とするのが嫌なんだろ?。選ばせるような言い方すんなよ。あんたが嫌なら嫌って言えばいいだけだろ!」
鋼のが強く言い放つ。怒りでなく、不安が手に取るように伝わって来る。細い腕を掴むと、力任せに引き寄せて強く抱き締めた。
「嫌じゃないから、困っているんだよ」
「じ、じゃあ、いいじゃねえか」
あからさまな動揺。ここまでしておいて、何を今更驚く事があるのか。この私が、好きでもない相手と寝られる人間だと、本当に思っているのだろうか。それはそれでかなりのショックだが。
「改めて聞く。性行為の経験はあるのか?、キスは?。するだけでなく、された事は」
「答える義務はねえ」
「君が正直に答えてくれたら、私も精一杯の誠意で返そう。勿論、ベッドの上での誠意だが」
鋼のが黙る。彼の中でも計算をしているのだろうか。それとも、私以外の男と交わった経験があって、迷っているのだろうか。最善から最悪の答えまでを、一通り頭の中に用意して、答えを待つ。
「計算するな。やるかやらないかの答えは、もう出ている。そうだろう?」
「…………」
「私が欲しいのは、君の真実だ」
抱き締めた腕に、無意識に力が籠もる。小さな体は頼りなくて、それだけで切なくなる。機械鎧の半身は冷たく肌に触れて、私の熱を分かち合いたいとすら思う。伝われ、伝われ。そう念じて私の中に湧き上がる不安を打ち消す。
「……ない」
「誰とも?された事もした事も?キスも?」
「ねえよ、なんもねえよ悪かったな童貞だよ!。だからって、手加減すんじゃねえぞ!」
ああ、私はなんて欲深いんだ。こんな事で、彼の初めてを手に入れられるという黒い欲望で、とても安堵し興奮している。
「手加減?出来るわけがなかろう。大切にして来た君の『初めて』だ。一生忘れられないくらいの経験をさせてやるよ」
「あんた、悪趣味だな」
「何とでも言え。君こそ、私を相手に選んだ時点で、相当の悪趣味だ」
腕を緩めて、鋼のをそっと押し倒す。彼も安堵の表情を浮かべていて、愛しさが募る。自惚れていいのだろうか。彼が私を選んでくれた事に。
「さあ、君には悪いがこれからが本番だ。良すぎて後で後悔するなよ?」
「望むところだ。さっきの中断は後でやらせて貰うからな」
こんな場面でも不敵に笑う。気丈な態度に熱が上がる。ああ、これが鋼のだ。なんとか自分を保ちつつ、味わって味わって、一晩かけてじっくりと思い知らせてやるからな。
鋼のが、こちらに向けて右手を伸ばした。鋼の手と私の肉の指が絡み合って繋がる。それを合図に、唇を重ねた。
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