16くらいの時の俺



大佐と付き合い始めたのは、俺が16になったばかりの頃だった。

その時の俺は、どうしても大佐が好きで好きで、男同士だとか歳の差だとか云々よりも、明日にはどうなるかもしれない不安や、一向に解決に向かわない旅に対しての焦りに、一切の余裕なんて無い状態だった。
大佐は、変わらず俺達を心配して、大切にしてくれていた。でも、俺は確実に気付いていた。あいつの心配の中に時々見える、少し色の違う優しさ。俺はそこに遠慮なく付け込んで切り込んで、押して押して押して、押しまくって、見事「ロイ・マスタングの恋人」という地位を勝ち取った。
どのように押したかというと、とにかく質より量。言葉で好きだと伝え続けた。愚直ではあるが、俺の出来うる限りの戦法で、大佐は何とか落ちてくれた。
ただ、大きな問題があった。ロイ・マスタングはとても優秀な男で、仕事もプライベートも上手に切り分け、頭も良く人からの信頼も厚く素晴らしい人間なのではあるが、評価に比例するかのように、モラルをとても大切にする人間だったのだ。


「なあ、たいさ、もっと」

「…これ以上は、今は、ダメ」

二人きりの甘い時間。今、離れたばかりの唇を、もう少しと体を摺り寄せても、大佐はそれ以上の関係を進めようとはしなかった。
どんなに強請っても、強い抱擁やキスまで。舌…は入れるとやんわり怒られる。せがむ俺をぎゅっと抱きしめて、額や頬に唇を寄せながら優しく拒否する。
俺から強引に進めてしまった関係だから、やっぱり男相手には無理だったのかと不安になった時期もあった。しかし、大佐が俺を思ってくれている事は充分に伝わってきて、疑いようがない。

愛されている実感はあっても、不安や不満が付きまとう。この感覚は俺も初めて味わうものだったが、恋愛ならではなので仕方がない。と、俺は思っていた。

「なあ、大佐って、何人くらいの女と付き合った?」

「3、4人かな」

「年の割に少なくねえ?」

「軍に入ってからは忙しいからね。そんなにまめに声をかけてもいられない。君と付き合い始める前の、独りの時間も長かったし」

「…ふーん。全部、本命?」

「遊びの付き合いはしないよ。性に合わん」

「……ふーん」

勇気を出してこんな事も聞いた。だって気になるだろ?、どういう付き合いをしてきたのかとか。さりげなく聞けたと思うので、大佐もさらりと答えてくれた。
そんな過去の本命達に薄くジェラシーなんて感じてしまうが、今は俺のものだと言い聞かせて落ち着く。こいつは、あきれてしまうくらい誠実なのだ。
軍内部で流れていた『マスタング大佐は女癖が悪い』なんてまことしやかな噂は、大佐を妬んでのものだった。一緒に時間を過ごせば過ごす程、理解してしまうから切なくなる。だから余計に困ってしまうのだけれども。

理解はしても、付き合い始めてテンションが上がった俺は、どうしても満足が出来ない。優しい大佐に、どんどんわがままになる。
デートもしてるし、大佐の家に泊めてもらったりもした。あいつは本当に優しくて、俺を大切にしてくれる。求めれば大佐は応じて、抱きしめたり顔や唇をなぞるようなキスをしてくれる。でも、愛だけど、恋の色気が足りない。本当に俺と大佐は恋愛関係にあるんだろうか?、今、この男から欲しいのは家族の愛情じゃあない。勿論、わがままだとはわかっているけども!。


大佐の部屋で、ソファーで抱き合いながらのんびりしていても、俺の心は穏やかじゃなかった。つつき過ぎたら嫌われるかもしれないといつも思う。でも、それを俺は抑える事ができない。

「大佐は、俺とはセックスは出来ない?」

近い距離で逃げられないような状況で、こいつにこんな事を聞くなんて俺は意地悪だ。大佐の整った顔に、困ったような表情が浮かぶ。

「ごめん。今は、まだ」

「じゃあ、別れる」

「それは…辛いな。まいったな」

悲しそうな顔に変わり、目線が外される。腕はぎゅっと俺を抱きしめて、離れる気がない事を俺に伝える。

「なんで?男だから?」

「只でさえこうしている事も、世間から見れば道徳に反しているのに。それに君はまだ16だ。私が手を出す訳にはいかない」

「幾つだったら良かったんだよ」

「20才、かな」

「年齢だけ?障害はそれだけで」

「せめて年齢だけでも、と言ったらいいかな。お願いだ、解ってくれ」

モラルレベルの高い大人は、泣きそうな顔をする。腕は一向に緩まない。ああくそ、セックスは大事だけど、今セックスが出来ない程度で、俺だってあんたと別れらないよ。どれだけ好きだと思ってんだよ。
俺は何も返せなくなって、大佐にぎゅうぎゅう抱き付いて色々なものをやり過ごした。仕方ないじゃないか。だって、あんたが大好きなんだから。



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