そのご。


ゴスロリ演歌アイドル兄さん小話。マスタングはレコード会社社員。上の鬱話とちょっと続き。



エドワードが多忙に精神バランスを崩してちょっと落ち込んでいたのが先月。
今は何事もなかったかのように振る舞い、時間が無いせいか以前のように襲撃(本人曰わくラブアタック)は無くなったものの、たまに顔を合わせればダーリンだの何だの言いながら投げキッスやウインクで攻撃してくる迄に回復していた。

私はそれを大袈裟に嫌がったり呆れてみせたりする。追うエドワードに拒否する私。例えるならば付かず離れず距離を縮めない鬼ごっこ。こうすればお互いがいつまでもこの関係でいられる。そんな消極的な思惑を相手にも期待しながら、暗黙の了解として捕らえていた。

なぜ今更こんな事を感じるのかというと、あれからエドワードは少しだけよそよそしくなってしまったからだ。
前ほどの強い押しもボディタッチも無い。彼の中には「弱みを見せてしまった」という気まずさが有るのかもしれない。そして、変化は私にも。

儚く弱いエドワードの一面と、この先いつ消えてしまうかわからない不安に彼への関心は高まるばかり。
何人も担当してきたが、私もこんなに思い入れた事はない。彼に会いたいが為に偶然を装っては現場ですれ違えるような事も度々した。
エドワードとはあれから深い話をしていないので、今彼がどれだけの不安やストレスを抱えているかは私にはわからない。また頼ってくれたなら不安も聞いてガス抜きにも付き合ったりしてやれるのに、そんな身勝手な心配までするようになっていた。



「よう、ダーリン元気にしてた?」

「私の名前はマスタングなんだがな聞き間違いかな」

「相変わらず恥ずかしがり屋さんだなダーリンは。そういうのツンデレって言うんだよ」

「デレてないだろ何時だって」

「あ、二人きりの時はもう俺にデレデレなんですよこの人。来年入籍予定でーす宜しくお願いしまーす」

久しぶりに会えてもこんな調子。周りのスタッフもいつも通りと笑っている。
一度距離を詰めた後だからかもしれないが、彼のふざけた態度が更によそよそしく感じられてしまう。

「エドワード、ちょっと」

「あらー何だろ今更愛の告白?、熱烈だなあマスタングさんは」

「いいから、来い」

エドワードを連れて使われていない部屋まで移動した。こんな所まで連れて来なくても。私自身もそう思っていたが、何故か二人きりになりたかった。

「その…大丈夫か?仕事はつらくないか?酷く疲れてるとか」

「大丈夫だよ、おかげさま。仕事のテンポも掴めたし売り上げも好調みたいだし」

「そうか。何かあったらすぐに私に言いなさい。出来れば何かが起こる前にだ。君は必要以上に頑張り屋だから皆心配している」

「大丈夫だよ、ちゃんとマネージャーに色々言ってるから。レコード会社にまで迷惑はかけねえよ」

安心して。と笑う彼の言葉に、寂しさとも苛立ちともつかない感情が入り混じる。胸の中を熱湯が流れるような、そんな痛く痒い感覚。

「あんたこそ疲れてんじゃないの?、ちゃんと休んだほうがいーよ」

「エドワー…」

無意識に、手を伸ばしてしまった。エドワードは触れられないようにそれを避けた。ひらり。と長い髪と趣味の悪いフリルが翻る。

「もう戻るよ、心配してくれてありがと」

距離を取ったまま気を使うような笑顔を残して部屋を出ていくエドワード。私は何故か追いかける事も出来なくて。
私は今なにをしようとした?、確実に『彼を抱き締めようと』体が動いていた。
小さな体を抱き締めて、特別な関係を確認し安心したかったのは私だ。そしてそんな押し付けがましい私を上手に拒否してエドワードは逃げて行った。そりゃそうだ、男相手に何かされそうになれば誰だって逃げる。

距離に態度に、彼に何を期待しているのだろうか。そもそも私達は元より特別な関係でなんてなかった。以前よりも執着は強くなり、いつの間にか私は『彼に迫る迷惑な変態』の一人になってしまった。

「これじゃ『何かあった』のは私じゃないか」

手のひらがポケットの中を苛立たしく何か無いかと探している。いかん、宜しくないな。また禁煙に失敗しそうだ。







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あきゅろす。
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