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「うまい!!」
「なら良かった」
「もしかして見栄張っちゃってる?」
「…君は私に対して酷い想像をしていないかい?」
「会社が忙しくて、バカみたいに人が良くて、そういや年いくつ?」
「ピチピチの30才だ」
「ピチピチしてねえし!つか、26だと思ってた!」
「なんだその具体的な数字は」

目の前の子供は、先ほどまでの仏頂面が嘘のように笑顔を浮かべながらおいしそうにオムライスを頬張る。上品ぶって食事を残す女達と一緒に食卓につくよりも、ずっと楽しく食が進むのは明らかで。

「あんたも一人暮らしなんだろ、自炊してんの?」
「忙しくてね、最近は出来合いの弁当に頼りきりだ」
「うわさみしー。彼女とかに作ってもらえば?」
「丁度!、今!、いないだけでね」
「ふーん。そう」


楽しく会話を交わしながら食事をするなんて本当に久し振りで。今度から本を借りたら食事もセットにできないかと画策しながら、既に頭の隅では次回の店を検索していた。


「ここ、口の端についてるよ」


デミグラスソースを口の端につけて笑う子供に身振りで教えると、ズレた所を拭ってまた食べ始める。一度気になると物凄く気になる。


「…ほら」
「………っ!!」

少し迷ってから、手を伸ばして指先で拭ってやる。やり過ぎたかとも思ったが、きっとこの子の親がここにいたらこうしたのではないか。そんな軽い気持ちだったのに。驚いて固まる少年の顔が面白いくらいに真っ赤に染まった。唇をぱくぱくさせて何かを言おうとしているが、一向に声は聞こえて来ない。


「あー、すまない。ついね、…嫌だったかい?」


心配になって声をかけたが、この反応が一体何なのか、自分は長い経験からよく似た物を知っている。
すれ違う部外の女性社員が、ふとしたきっかけで会話を交わしたりする時に見せる照れ、恥じらい、緊張。それは全て強い好意から寄せられるもの。すなわち、恋心。

「こ、子供じゃあねえんだから!!」

真っ赤な顔のままバクバクとスプーンを運ぶ姿がなんとも微笑ましい。

指先が触れた肌は柔らかく弾力があり、自分も少しだけどきりとした。しかしそれ以上に、緊張した彼の様子に引きずられてしまった自覚がある。
そうだ、相手は子供で男なんだ、そんな筈はないだろうと括ってグラスのワインを傾けた。




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