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夕暮れの公園を足早に横切り待ち合わせの図書館へと向かう。立場上、定時に上がるのは流石に難しくて結局閉館ギリギリになってしまった。

金曜日に会おうという約束を交わしてから、まるで初デートの時の学生のようにドキドキと毎日を過ごした。久しぶりに感じる気持ちがあまりにも若すぎて、浮かれている自分に少し呆れさえする。
だ・か・ら!、相手は男で子供だろうが!!と、自分の中で繰り返し念を押していたが、そろそろ言葉は意味を成さなくなってきているし。

人の少ない図書館に入ると、そこにはカウンター横の椅子に座って本を読む待ち人の姿。黒いシャツに黒いズボン、俯いたうなじの白さが金の髪と共に綺麗に対比を重ねる。
呼吸を整えて正面に立つと、見上げる笑顔は夢にまで見た見事な金色で。

「遅せぇ!待ちくたびれた!!」

開口一番に放たれた乱暴な言葉は、きらきらと輝きながら浮かれて美化し過ぎた虚像を回し蹴りで粉砕してくれた。




本の返却と新しい貸し出しの手続きを済ませて外へ出た。
昼間よりも少しだけ温度の下がった風に吹かれながらのんびり並んで歩く。

「なあ、腹減ったよハラ!!何か食ってかねえ?あんた食べたくないもんある?」
「そういう聞き方があるか」
「だって『君の食べたい物でいいよ』とか言いそうだからさ、したら俺はあんたの食べたくない物を知っとかないと」
「……まあ、当たりだが」

先手を打たれて少しだけへこむ。
あまり安くて不味い店はいやだとか、出来れば酒も飲めるといいとか、色々と浮かぶがこの子の好みがわからないので少し迷う。

「あ、それとさ、俺おごられるの嫌い。気ぃ遣うんならおごらないで俺が入れる店選んで?」

またしても先手を打たれてしまった。
わざと図々しく踏み込んだ発言と、伝える事で互いに余計な気を遣わないようにしたいという彼の思惑が感じられて切ない。
いかん、これ以上は大人としても、男としても沽券に関わる。

「昼間は蕎麦だったから…ハンバーグが食べたいな、いいかい?」
「子供みてえ」
「近くに美味しい洋食屋があるんだ、そこへ行こう」

ハンバーグという具体的なメニューで騙して、三ツ星の洋食屋へと入った。
計画通り、少年は自分の想像と違った展開に居心地悪そうにしながらこちらを睨んでいる。

「…俺、あんたに何て言ったっけ?オムライスだけで2000円とかしてんだけど、ここ。俺の生活にゃこんな価格帯の食いモンはねえ」
「私もあまり無いね。でも、我慢して不味い物を食べるより、君に嫌がられながらでもおごって美味しい物が食べたい時もある。大人にだってワガママはあるんだよ」
「………あんた、ずるい」
「それは誉め言葉だね、気をつけた方がいい」

にっこりと余裕の笑みを浮かべて、今日やっと勝てたとこっそり胸を撫で下ろした。




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