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図書館の中はガンガンにクーラーが効いていて、汗も何もかもいっぺんに引いてしまった。

借りたい本は沢山あったらしく、少年は物凄い勢いで片っ端から本を漁りあれもこれもと持って来る。
内容は実用書から最近のベストセラー、純文学集など多岐に渡り、殆どが分厚い上製本ばかりだ。

「あと一冊、あと一冊、うわ何にしよう!!一番読みたいやつ貸し出し中みてえなんだ!」
「八冊ぎりぎりまで借りるつもりかい?」
「だって!こんなチャンスねえし!」

興奮気味に話す少年は本を抱えてうろうろと落ちつきがない。埒が明かないので一緒に本を運んでやり空いている席に座らせる。


「すごいね。今ある分だけでも、一度には持って帰れないんじゃないか?」
「えー、でも」
「でも、持って帰れないんじゃあ意味ないだろ」
「いや、持って帰る。ぜって持って帰る」
「人間、出来る事と出来ない事があるよ?」


どう考えても君の小さな体じゃあ持って帰れないだろ、と気を遣って具体的な言葉を避けたのに、理解してもらえない。
必死の眼差しに頭を悩ませていると閉館のアナウンスが流れ始めてしまった。
あわあわと慌てる少年をもう一度座らせて、また余計な一言がこぼれ出す。

「…とりあえず、今日はこの二冊にしておきなさい」
「え〜〜…これも読みたい…」
「また借りてあげるから」
「……え!?」
「それを返したら次を借りに来よう。それじゃあダメかい?」


再び目の前に大輪のひまわりの笑顔。しまった、この子相当可愛いぞ。いや男とか子供は全くの対象外だが、可愛いもんは可愛いんだ。

「あ、あ、あ、じゃあこれ…じゃあなくてこっちを先に…」
「いいから落ち着きなさい」

なんとか二冊選ばせてカウンターへと持って行く。貸し出し券を渡して手続きをする間も少年の瞳は本を凝視している。

「…ますだ、さん」

彼が見ていたのは本ではなく、貸し出し券に書かれた私の名前。呟くように告げられた名前に一瞬どきりとした。

「な、何だい?」
「や、名前知らなかったから。俺ね、エドワード。エドでいいよ」

よろしく、と手を差し出されて握手を交わす。握った小さな手が照れ臭いなあなんてぼんやりしていたら、司書から白い目で見られてしまった。
いえいえ、私は保護者のような、先生のようなものですと視線で訴えかけて笑顔を作った。





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あきゅろす。
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