2


しばらくすると、水をかけられた衣服はすっかり乾いてしまった。やってられるか、とネクタイを外して腕を捲る。

手荒な手段で我が身を心配してくれた少年に改めて礼を述べると、いいっていいって!とあくまでも明るく前向きな返事を返してきた。

「なあ、あんた会社行かなくていいの?」
「君こそ学校は?」
「俺、今夏休みだもん。つか、俺が聞いてんだけど…あ、もしかして、リストラ…うわあごめんな」
「物騒な事を言わないで欲しいね、これでも部内の稼ぎ頭なんだ」

申し訳なさそうな顔でごめんと謝る相手を制して止めさせる。本気で謝られると洒落にならない言葉だってある。

「俺な、そこの図書館に来たんだ。デカいから色々あるじゃん?でも通学圏外だから貸し出ししてくんなくてさー」
「勉強熱心だね」
「つか、暇潰し。家にいるとつまんないし」


ああ、止めておけ止めておけよ。私は大人なんだからこの子より出来る事が多いのは当たり前だろう!
一瞬、冷静な言葉が頭をよぎったが、暑さにすぐに蒸発してしまった。


「もし、どうしても借りたい本があるなら借りてあげようか?」
「…え?」
「私は通勤圏内でね、貸し出して貰えるんだ。勿論、君がきちんと返すのであればだが」

真っ直ぐに見つめる金色の瞳。大きく咲いたひまわりの花が眩しい程に笑った。

「うわあマジ!?あんた親切な人だ!リストラとか言ってごめんな!」
「…いや、それはもういいから…」


なら早速。と立ち上がると鞄と空になったペットボトルを三本抱えて早く早くと図書館にへと急かす。
頭が良いのかズレているのか、未知数な彼にゆっくりと興味が湧き始める。

今日ほど予定表に『直帰』と書いておいて良かったと思った日はなかった。
上着と鞄を小脇に抱えると、金色の笑顔の後を早足に追った。





[*前へ][次へ#]

2/28ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!