8 彼氏とは


「あんただって言ってたじゃないか。『どうして』よりも『どうしたいか』が重要だと思ってるって。オレはもう最初から『どうしたいか』は決まってるんだ。オレの中で『どうしてこうなってるのか』が知りたかっただけなんだ」
「それは…寂しいな」
「勝手に憐れむな。一番寂しいのはオレだ。初恋なのにどうしても叶わない相手を好きになっちまったんだから。それに、あいつにもオレにも、成し遂げなきゃならない事がある。万が一、付き合えたとしてもお互いを一番になんてできない。あいつがどうなのかは知らないけど、オレはそうだから。男で、子供で、恋愛対象外なのに、更に付き合っても一番じゃないなんて、どうにもならない。しかもオレのせいだから」
 寂しいのは、私だ。天国から地獄に突き落とされた。どん底に打ち付けられて胸が痛い。エドワードの気持ちを知るたびに、自分がどれだけ彼の事を知らずにいたのか思い知らされる。こんなにも理解して、物分りが良くて。君は自身の幸せを削ってどこまで真っ直ぐなのか。
「君は真面目なんだね」
「真面目じゃないよ。出来ない事に責任取れないってだけだ」
「相手との関係は続くのだろう? 辛くないのか?」
「そう言ってられない事情がある」
こちらから告白してもいいのでは無いかと思っていたが、もしかしたら全部無かった事にされてしまいそうだ。もう一度、私自身の気持ちと彼との関係について考え直さねばならないようだ。
「おや、約束の時間まで後一時間切っているね」
素直なエドワードと一緒にいられるのも、あと少し。その間にできる事は。
「延長ってできるの?」
「できるよ。支払いさえあれば」
「うーん、じゃあ、もう一時間だけ延長する」
「ありがとう、エドワード。君と四時まで一緒に居られる」
一時間の延命措置。時間を延ばして、君は一体なにをしたいのだろう。
 ケーキは美味しくて、エドワードの笑顔は甘くて、幸せなのに胸はどんどん苦しくなる。
「さて。男の私と一緒に過ごして、何か得たものはあるかい?」
「とりあえず、大佐にドキドキしてるから似てるあんたにもドキドキする。それ以外は知らねえ。逆に、もしかしたら誰とでも付き合えるかもしれないって可能性は強くなってきた」
これだけ過ごしても、彼の中で私は『ロイ・マスタングによく似た男』であることに驚く。途中で気づいて騙されたふりをしていないだろうかと、まだ少し疑っている。
「誰とでも付き合えそう?」
「と言うか、恋愛感情自体はどうでもいいみたいだ。いきなり家族にならなきゃいけなくなったら、多分なれる。みたいな感じ」
「投げやりだな」
「投げやりじゃないよ。大佐か、大佐でないか。それだけだ」
男らしく言い切って、でもまた赤くなる彼が愛しい。こんなに熱烈に想われているのに、いますぐに応えられない自分がもどかしい。今すぐ抱きしめて、私も君が好きだと伝えてしまいたくなる。
「情熱的だな」
「他に熱がないってだけで、そうでもないよ」
「…妬けるよ」
もしロイ・マスタングとして付き合えないのなら、このまま、よく似た他人としてこうして彼の本音を聞ける友人となれる可能性は拓かれないだろうか。
「もう少し話がしたい。しっかり。ゆっくり」
「部屋を取ったほうが良い内容?」
「いや、さっきからの話とあんまり変わらない。その辺でいい。座って話したい」
私も君と、残りの貴重な時間を大切に過ごしたいよ。今、自分が『ロイ・マスタングを演じるアルバート・モーランである』事を忘れそうになる。演じることで彼の本音を聞けるのだから、これはこれで大切な役割だ。
 エドワードに色々な選択肢を提示したところ、公園に行く事となった、彼は密室よりも気安いと思ったのだろうが、こういった密な会話をする場合、外でも中でもあまり関係無い。少し離れた場所の公園を希望したので、しばらくは移動だ。手を繋ぎたかったが、あまりしつこく言い出しても、きっと拒否されるだろうから止めた。



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