6 彼氏とは


「なあ、これからどこ行けばいいのかな」
ケーキ屋はあっちだよ。実は君は知っているんだよ。執務室でケーキを食べた事があったろ? あれは君が来ると思って私が用意しておいたんだ。とは言えないので道案内をする。が、どこへ行けばというのは違う話のようあった。彼は未だに『デート自体』を掴みあぐねている。
「まず、君のイメージしていた『デート』がどういうものなのか、聞いてみたいんだが」
「えっと、散歩したり買い物したり、とにかく一緒に行動して、公園のベンチに並んで座って周囲の視線を物ともせずに二人の世界を作り出していちゃいちゃする感じ」
「後半だけやけに具体的だな」
「だって、周囲から得られる一般的な情報ってそれくらいなもんだろ? あとは紙一枚の隙間なく二人並んで、他人の視界を遮る生きた壁になるとか、狭い道路を道幅一杯に使って通行の邪魔をするとか」
「偏ってるな。恨みでもあるのか?」
「あれ、何が楽しいんだろ…」
 ついに立ち止まって考え始めてしまった。彼は思考が活発になると周囲が見えなくなるので、そっと壁側に寄せて人の流れから守る。どさくさに紛れて体に触れたり近づいたりしてしまうのは仕方のないことだ(欲求的に)。
「何がって、それよりも人に倣うだけでなく、君が楽しいと思えることをやらないと」
 視界から得られるだけの表面的な情報はそれほど重要じゃない。相手が喜ぶか、自分が楽しいか。シンプルで奥の深い問題なんだ。
「…ならば、いちゃいちゃしたい? エドワード」
目の前にある小さな金色の頭が可愛くて、ちょっかいをかけたくなった。かがんで耳打ちすると、今度は耳まで真っ赤になった。
「な、なっ、なんっ、な、んで」
「君の中で具体的なプランがそれしか見受けられないからだ。子供を相手に法に触れるような酷いことはしないよ。安心しなさい」
「…ケーキ。そうだ、ケーキを食べに行かないと!」
いじめすぎたかな。エドワードの初々しい姿がたまらなくてつい構ってしまう。今日だけの関係だとしても嫌われない程度にしないと。しかし我慢は難しい。
「で、どっち?」
「あっちだよ。エドワード」
 エスコート、というには素っ気無いものなのだが、人の流れに当たらないよう小さな体を気遣う動作にエドワードが困ったように見上げてくる。
「ありがたいけど、逐一そういうのって疲れない?」
「相手にそうしてあげたいと思うから、一つも苦ではない。自然とそうなる。もっと関わりたいと思う。そういうものだよ」
「ふーん」
 それは一方的な欲求なので、君には届かなくてもいいんだ。優しさなんかではなく、ずっと身勝手な感情なのだから。
「さっき、あんたオレに子供って言ったじゃん」
「君がどんなに賢いとしても、十五歳は一般的に子供だからな」
「あんたくらいの年齢で子供が相手だと、恋愛にはならないかな。やっぱり」
 どう答えたら良いのだろう。一般論を答えるべきなのだろうが、それは私とエドワードの感情を否定することになる。言葉を選び慎重になってしまう。
「その人に依るところが大きいね。子供を積極的に恋愛対象にできる人種は横に置いておこう。好きになったとしても、大半は、守るべき相手を恋愛対象にして良いのかと悩むだろう。好きだがモラルを守るべきか、モラルを破って幻滅されないか。経験の少ない、まだ精神的にも成長途中の相手を傷つけてしまうのも怖い。とか」
「しかも同性だしな」
「だが、それも君と相手の関係で変わる。恋愛は一般論で割り切れるほど簡単じゃない。だから誰もが悩んで迷う」
最後にフォローのつもりで逃げ道を作ってみたが、正論の前には説得力も微々たるものであった。エドワードがあからさまにしゅんとしてしまったので、申し訳なさに頭を撫でた。
「同情とか、要らないんだけど」
「君のしょんぼりした顔が可愛くて、触りたくなった」
「へいへい」
(触っても怒らないし、拒否もしないんだよなあ)
まあ、執務室で触ったことが無いから分からないが、こちらに好意があったとしても私は触らせてもらえないような気がして、やっぱり少しだけ悔しい。




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あきゅろす。
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