4 彼氏とは


 エドワードの食べっぷりに癒されつつ、私も食事を進める。
「君は美味しそうに食べるんだね。見ていてとても気持ちが良い」
「そうか? あんただって、すごく美味しそうに食べてるよ」
「君との食事が美味しいんだ」
「まーたそういう」
いつも君の事は素直に褒めているよ。それを受け取ってくれないだけだ。
「思ったことは素直に言うようにしている。君も、恥ずかしいと思わずに今日はなんでも言葉にしたら良い。日常生活の中では場所と相手を選ぶが、今日は私が相手だ。練習台になれる」
「そう言われても」
「感情を言葉に表すのは難しいぞ。まず自分の感情に気づき、その正体を見極め、系統立てて見合った言葉を探す。語彙も必要だ。意識して訓練しないと必要な時に的確に表せない」
 かつて自分がそうであった。自分の感情を外に出さない事と、自分の感情を言葉に表せないのは根本的に違う。ただでさえエドワードは人に頼ろうとしない。弱音も吐かないし本心も漏らさない。そういう生活が彼の心を閉じ込めてしまわないか心配だ。この歳で達観したような表情を見せる事もある。もし心を許せる相手がいるなら、肩の荷を降ろす瞬間があっても良いのではないだろうか。それが私でなくても。
「だが、一度言葉にしたものも絶対じゃない。後から気付ける事もあるし、言い表せる言葉を後に知る場合もある。間違いなんか無い。恐れずに口に出して欲しい」
「ごめん。デートする人だからって勝手に思い込んでて、こういう話になると思ってなかった。ありがたいな。こういう話はしたことがない」
「まだ私たちは出会って一時間も経っていないのだから、これからお互いを知ればいい。そうだろ? エドワード」
 もう二度と会わないような、自分の人生に関わらない相手だからこそ言いやすい事もあるだろう。
「うん。そうだな。なあ、ロイさんの事も聞いていいの?」
「何が聞きたい?」
「まず歳とか」
「二十七歳」
 いつも言われる年齢で答える、あまり若く見られるのは好きではないがエドワードは納得したようだ。
「妥当だな。この仕事は何年くらいやってるの?」
「二年くらい。たまに呼ばれて」
「見知らぬ女の人とデートするのって、難しくないか?」
「もちろん個人差はあるけど、相手に目的がある場合は簡単だよ。例えば、お姫様みたいにちやほやされるデートがしたい、とか、気の済むまで愚痴を聞いて欲しいなんて人もいるね」
「男の人からの依頼はある?」
「あるみたいだけど、私は受けたことがない。今回が初めてだ」
「そっか。そっかー」
 このくらいの出任せは用意していなくてもスラスラ言える。エドワードはすっかり信じているようだ。
「君は十五だったね。十五にしては、こう…」
「それ以上言ったらぶん殴る」
「いろいろ気になる年頃だとは思うが、今、自分の持っているものを全て長所として捉えて活用するのも大事だぞ。例えば、君はとても綺麗な外見をしている。それだけで味方は多いだろう」
「オレはきれいじゃない。嬉しくない」
「何でも自分の思い通りにはならない。みんな身勝手だからね。君も、私も、みんな。だからどこで折り合いを付けねばならないかを模索し続ける」
「大人みたいな事言う」
「おや、大人だとは思っていなかったのかい?」
 もぐもぐしながら表情が曇ってきたので、話題を変えよう。この子は外見を褒めても喜ばないから難しい。
「君がどうして私を呼んでくれたのか、聞いても良いかな」
話さなくてもいいよなんて言ったが、あれは嘘だ。さあそろそろ答えてもらおう。
「オレは、自分が同性に興味があるのかを検証したい。そのためにお兄さんを借りた」
「黒目で黒髪、筋肉質の軍人が君のタイプ? それとも、マスタング大佐に似た人が良かった?」
「あー、うん。大佐に似た人の方がサンプルになるかと思って」
落ち着け落ち着け。焦るな。慎重に。心を落ち着かせるが気は急いてしまう
「君はその『大佐』の事が好きなのか?」
「んー、……多分」
 私を有頂天にさせるには、その一言だけで十分だった。



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あきゅろす。
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