３ 彼氏とは
「デートって、何をすればいいんだろう？」
眉間に皺を寄せて何を考えているのかと思ったら、根本的な話からのスタートだった。
「男女関係なく、大好きな相手と一緒に楽しく過ごせばそれはデートだと思うよ。…あ、もうちょっと堅い真面目な感じの方がいいかな？」
「いやまあ、希望は出したけど、話し方は何でもいいよ」
依頼に対した不慣れを最初だけ演出しておく。あとはいつも通りで良いのだから。
「では、は…、腹は空いていないか？ 君が良ければ食事をしよう」
もう一つ、鋼の。と言わないように気をつけないと。危なかった。
「ミートボールの入ったパスタが食べたいな。それでなかったら魚のフライ。タルタルソースがたっぷりのやつ！」
あああ、そんな食欲全開の可愛いリクエストが来るなんて。こちらも全力でお応えしようじゃないか。
「良い店を知っている。少し歩くけど、いいか？」
「それくらいは我慢出来るよ。行こう」
いつかエドワードを連れて行きたいと思っていた店だ。叶って良かった。どちらに行くとも言っていないのに先に進むものだから、小さい横に慌てて並ぶ。
「エドワード。手を」
手を繋ごうとしたら、横っとびに逃げられた。壁にぶつかって鈍い音までする。大丈夫か機械鎧の側だと接合部が痛いんじゃないかと心配になる。
「うわああああ無理無理無理無理！」
今日の私は彼氏なんだしそれくらいは良いかと思ったのだが、全力で拒否されてしまって悲しい。
「大丈夫か？ 君、何でレンタル『彼氏』を申し込んだんだ」
そう、私が知りたいのはそこなのだが、エドワードは言い淀む。
「それは話せば長くなるんだけど、まあ、後で」
「話したくない事は話さなくてもいいが、できるだけ君が楽しく、悔いの無いように過ごして欲しいんだ」
優しい言葉だが、折に触れて聞いていこうと思う。話さなくてもいいよなんて言っておくけど必ず聞き出してやる。
「ありがと。仕事とはいえ、あんたいい人だな」
「仕事だが、相手にどこまで尽くしたいかは個人判断だ。今日は君が相手で、少し浮かれている」
「そうなんだ？」
「相手が君のような可愛い子で正直嬉しい。手だって繋ぎたいし、ワガママにも全力で応えてやりたい」
いつも、どこに行っているか分からない君を執務室で心配するしかない私の身にもなってくれ。介入を拒み甘やかす事も許さない。最近は前よりも積極的に利用してやろうという態度が見られて、ちょっとだけホッとしている。先日も紹介状を頼まれたところだ。
連れて行った店は最近人気のビストロ。落ち着いていてデート向きの小綺麗な店だ。すぐに中へと通されて、私達は窓際の席に向かい合って座った。客のほとんどは男女の組み合わせ。外から見れば、私達は親子か兄弟か、到底恋人同士になんか見えないのだろうな。ふと浮かんでしまって寂しくなる。
「君は何を食べる？ 私はこのランチのコースで。こっちのセットならミートボールのスパゲティが選べるぞ。量は多くなりそうだが」
「量が多いのはありがたい！」
前に司令部の食堂で食べている姿を見かけた事がある。大きな口でどんどん食べ進めていて、こちらも腹が減った。その後、茶にも食事にも何度も誘ったが、全く取り合って貰えなかった。先日もそうだった。新しい記憶だ。
料理が並ぶとテーブルの上は華やかになる。エドワードがいただきますと大きく挨拶をしたので、私も同じようにそれに倣った。
大きなミートボールを一口で含んで、リスのように頬張る。ああ、なんて可愛らしい。
「美味しいなあ」
「君が気に入ってくれて良かった。ムニエルもとても美味しいよ」
美味しそうに食べる姿に餌付けが止まらない。ムニエルを切って渡すとミートボールが帰ってきた。しかもはにかんだ笑顔付きで。
ああ。幸せすぎて死んでしまいそうだ。ずっとこうして彼と穏やかな時間を過ごしてみたかったんだ。誰にも言えない私の秘密。まだ十五歳の子供に、ずっと前から面倒を見ていたエドワードに、いつの間にか片思いの恋をしているなんて。
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