レンタル8


「あんただって言ってたじゃないか。『どうして』よりも『どうしたいか』が重要だと思ってるって。オレはもう最初から『どうしたいか』は決まってるんだ。オレの中で『どうしてこうなってるのか』が知りたかっただけなんだ」
「それは…寂しいな」
「勝手に憐れむな。一番寂しいのはオレだ。初恋なのにどうしても叶わない相手を好きになっちまったんだから。それに、あいつにもオレにも、成し遂げなきゃならない事がある。万が一、付き合えたとしてもお互いを一番になんてできない。あいつがどうなのかは知らないけど、オレはそうだから。男で、子供で、恋愛対象外なのに、更に付き合っても一番じゃないなんて、どうにもならない。しかもオレのせいだから」
今日はたくさん言葉が出てくる。誰にも言ったことのない気持ちや言葉がすらすらと流れてくる。不思議だ。この人とはもう二度と会わないだろうという気楽さがそうさせているんだろうか。
「君は真面目なんだね」
「真面目じゃないよ。出来ない事に責任取れないってだけだ」
「相手との関係は続くのだろう? 辛くないのか?」
「そう言ってられない事情がある」
世間一般の十五歳の人生からは少しだけ外れているかもしれない。でもそれを説明はしたくない。ロイさんは、そうか。とだけ言って紅茶を飲んだ。
「おや、約束の時間まで後一時間切っているね」
時計を見たら、そろそろデートの終わりが見えている。申し込んだ三時間なんてあっという間だ。昼飯を食べて、移動して、甘いものを食べて。妥当な時間経過か。
「延長ってできるの?」
「できるよ。支払いさえあれば」
「うーん、じゃあ、もう一時間だけ延長する」
「ありがとう、エドワード。君と四時まで一緒に居られる」
 ケーキはとても美味しかった。甘いものを食べると人は幸せになれるんだそうだ。ここならまた来れそうだから、買いに来ようと思う。
 食事して甘いものを食べて、これ以上食べ物に依存できない状況になった。あとは何をしようか。
「さて。男の私と一緒に過ごして、何か得たものはあるかい?」
「とりあえず、大佐にドキドキしてるから似てるあんたにもドキドキする。それ以外は知らねえ。逆に、もしかしたら誰とでも付き合えるかもしれないって可能性は強くなってきた」
「誰とでも付き合えそう?」
「と言うか、恋愛感情自体はどうでもいいみたいだ。いきなり家族にならなきゃいけなくなったら、多分なれる。みたいな感じ」
「投げやりだな」
「投げやりじゃないよ。大佐か、大佐でないか。それだけだ」
言葉にしてから恥ずかしくなってきて、顔が熱い。真っ赤だろうな。今日はずっとこんな感じだ。
「情熱的だな」
「他に熱がないってだけで、そうでもないよ」
「…妬けるよ」
 呟いた小さな一言はさっきからの気を使ったものとは違うような気がした。オレに向けられたものではない。そんな雰囲気だった。
 今なら手を繋いでもなんとも思わないけど、一度断ってしまうと言い出せないし、平気なら繋ぐ意味も無いかなと思った。でも、落ち着いたら手は見せてもらおうという下心だけはなぜか消えていなかった。
 あと一時間半くらいの時間。その間にこの経験豊かな大人としておきたい事ってなんだろう。
「もう少し話がしたい。しっかり。ゆっくり」
「部屋を取ったほうが良い内容?」
「いや、さっきからの話とあんまり変わらない。その辺でいい。座って話したい」
 でも、人があまりに近いのも、周囲がうるさすぎるのも困ると言ったら、ロイさんは色々な選択肢を出してくれた。オレは公園を選んだ。そうかだからカップルはデートに公園を選ぶのか。身を置いてみないとわからないことは沢山ある。




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