レンタル7


 大通りを歩いて西に抜けた。住宅街に入る手前にケーキ屋はあった。少ない座席はほぼ埋まっていたがタイミングが良くて、オレたちはテラスの端の席に案内された。よく手入れされた庭は花がたくさん咲いていて、風のそよぐ木陰は気持ちがいい。
「オレ、チョコレートケーキと、プリンアラモード。あーでも、ショートケーキもいいな」
「ならば私がショートケーキを頼むから、一口味見をすればいい」
「いいのか?」
「私は生クリームが食べたいから、他に候補があるならシュークリームか」
「あれ、でもここのシュークリームはカスタード一択っぽいよ」
 ロイさんは甘いものが好きなのかな。ならよかった。まあ、甘いものが好きじゃなきゃ、こういう店も知らないだろうしな。オレ達は紅茶やらケーキやらを幾つか頼んで、顔を上げたら目があった。
 本当に、大佐によく似ている。でも、ニコニコしてるからかちょっとタレ目に見えなくもない。泣きぼくろが色っぽくて、長い間見ていられない。その間にも相手はオレだけに微笑みかけたりするからだ。
「ロイさんってモテるだろ」
「今は特に、好いてもらえるような努力をしているからね」
「謙虚と見せかけて否定しないところが憎らしいな」
「君だって、もう少し成長したらさぞや美しい青年になって、引く手数多だろうね」
「そう? っていうか、今すぐに引く手数多にはならねえかな」
「人生経験も必要だと思うのだが、それ以上に、引く手数多でも意中の一人に相手にされないのはとても悲しいとだけ伝えておこう」
「うわ。嫌なこと聞いた」
そうなんだよなー。オレがモテても最終的に大佐にモテないと意味はないんだよな。改めて、難しいぞ恋愛。
「お待ちどうさま。紅茶は砂時計が落ちてからお飲み下さい」
 運ばれてきた皿の上は天国だった。甘いものと甘いものと、甘い物。しばらく食べてなかったから、久しぶりの再会に感動を覚える。
「わ〜、いただきます!」
テンションが上がりまくったオレにロイさんもフォークを取った。チョコレートケーキを一口頬張れば、濃厚な甘さが口の中に広がる。鼻から抜ける香りはお酒だろうか。とろり。と口の中でほどける。
「エドワード。これも食べなさい」
ショートケーキをざっくり切って、しかもイチゴまでつけてくれた。ならばとオレもチョコレートケーキをざっくり切り取る。
「チョコうまい! ロイさんも! ほらロイさんも!」
「じゃあ、私のから」
そう言って一口サイズに掬った生クリームとスポンジが目の前に差し出される。あれか。これ、あーんってやつか。ロイさんの微笑みは無言の圧力。仕方なく餌付けの雛のようにぱくりと食べた。
「イチゴは?」
「…好き」
再び差し出される赤い塊を、ぱくり。恥ずかしいなあもう。でも、デートだからいいのかな。
(えっこれまさかロイさんにも食べさせたほうがいいのか? 強請られない? 用意しよっか? あーんって言わせた方がエロくないか?)
とか、めちゃくちゃ考えていたのにその先は特になかった。わざと大きめに取ったケーキは自分で食べる羽目になってとても食べづらかった。
「エドワードは、好きな相手が男だと自覚して、自分はそもそも同性愛者なのかと思い、今日のデートに至った訳だよな」
「簡潔に説明できるもんなんだな。そうだけど」
「それで、君はどうしたいんだ?」
「どうもしない」
「え?」
「オレは大佐が好き。それだけ」
 ロイさんはびっくりしている。
「告白はしないのか? ここまで悩んだ相手なのに」
「しないよ。大佐は女好きだって噂になるくらいだし、きっとオレなんかから告白されるなんてこれっぽっちも考えちゃいない。きっとびっくりして、笑って、おしまいだ。それだけならいいけど、今の関係が壊れても困る。大佐に変な気を遣わせたくねえしな」
それは、この気持ちに気付いてからずっと変わっていない。



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あきゅろす。
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