レンタル6


 ロイさんは簡単だって言うけど、やっぱりデートって難しいんじゃないかな。だって、どこに行って何をすればいいか、今も全くわからないんだ。
「なあ、これからどこ行けばいいのかな」
「まず、君のイメージしていた『デート』がどういうものなのか、聞いてみたいんだが」
「えっと、散歩したり買い物したり、とにかく一緒に行動して、公園のベンチに並んで座って周囲の視線を物ともせずに二人の世界を作り出していちゃいちゃする感じ」
「後半だけやけに具体的だな」
「だって、周囲から得られる一般的な情報ってそれくらいなもんだろ? あとは紙一枚の隙間なく二人並んで、他人の視界を遮る生きた壁になるとか、狭い道路を道幅一杯に使って通行の邪魔をするとか」
「偏ってるな。恨みでもあるのか?」
「あれ、何が楽しいんだろ…」
「何がって、それよりも人に倣うだけでなく、君が楽しいと思えることをやらないと」
うーん、と立ち止まって考え込むオレが人に当たらないように、ロイさんは流れに壁になる。そういうの、デートっぽいけど、オレの役回りじゃないのかな。
「…ならば、いちゃいちゃしたい? エドワード」
かがんでひそひそと耳打ちされて、再び顔は真っ赤になる。ああもう、それ、心臓に悪いからやめてくれ。大佐に似た声は色っぽくて脳みそが沸騰しそうになる。
「な、なっ、なんっ、な、んで」
「君の中で具体的なプランがそれしか見受けられないからだ。子供を相手に法に触れるような酷いことはしないよ。安心しなさい」
「…ケーキ。そうだ、ケーキを食べに行かないと!」
慌てて進むオレの後ろから、ロイさんが笑いながらついてくる。
「で、どっち?」
「あっちだよ。エドワード」

 大通りを並んで、でも通行人の邪魔をしないように進む。週末の中心街は人通りも多くて、オレが人の壁に引っかからないようにロイさんは庇ったり歩みを止めたりとずっと気遣う。たまにそっと肩を抱いて(でもすぐに離す気遣い込みで)避けたりするから、ちょっとドキドキする。
「ありがたいけど、逐一そういうのって疲れない?」
「相手にそうしてあげたいと思うから、一つも苦ではない。自然とそうなる。もっと関わりたいと思う。そういうものだよ」
「ふーん」
 いまいちピンとこないのは、オレに恋愛経験値が足りないからだ。悔しいがそれは認める。わからないことや知らないことは、隣の経験者に聞いてみよう。そのために叩いた大枚だ。
「さっき、あんたオレに子供って言ったじゃん」
「君がどんなに賢いとしても、十五歳は一般的に子供だからな」
「あんたくらいの年齢で子供が相手だと、恋愛にはならないかな。やっぱり」
ロイさんは少し考える。言葉を選んでいるようにも見えた。
「その人に依るところが大きいね。子供を積極的に恋愛対象にできる人種は横に置いておこう。好きになったとしても、大半は、守るべき相手を恋愛対象にして良いのかと悩むだろう。好きだがモラルを守るべきか、モラルを破って幻滅されないか。経験の少ない、まだ精神的にも成長途中の相手を傷つけてしまうのも怖い。とか」
「しかも同性だしな」
「だが、それも君と相手の関係で変わる。恋愛は一般論で割り切れるほど簡単じゃない。だから誰もが悩んで迷う」
とは言っても、オレと大佐の関係はどうにもならないと知ってるので、言葉が続かない。ロイさんがオレの頭をわしわしと撫でる。
「同情とか、要らないんだけど」
「君のしょんぼりした顔が可愛くて、触りたくなった」
「へいへい」
触られること自体は問題ない。相手に対する嫌悪感も無い。ただ、大佐と重なるたびに心臓が死にそうなくらいに跳ねるだけなんだ。
(手は繋げないって言ったけど、後で手を見せてもらおう)
 オレが大佐の声の次に好きなのは『手』で『指』なんだ。ロイさんの手も綺麗だった。指がオレの好みだった。大佐みたいな感じだったから欲が湧いた。支払った分くらいはいいだろう。ふひひ。




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