レンタル5

多分、という事は、君の中でも迷っているのか」
「うーん、恋愛感情だと思ってるけど、前例も比べる先も無いから本当にそうなのかなって」
「好き。という感情は難しいね。シンプルに好意として捉えても、それぞれの色が違う。例えば君は「青」と言われてどんな青色を浮かべる?」
言われて浮かぶのは、大佐が着ている軍服の青色。少しくすんだ色に思えるのは、執務室で見ている印象があるからだ。でも、ロイさんは向かい側の女性が着ているワンピースの、夏の空のように明るい青色をちらりと見やった。それだけで意図は伝わる。
「可視化されているものでも、全く同じものを指すとは限らない」
「そう。同じようで同じではないし、尊敬も憧れも、守ってやりたいのも大切にしたいのも、干渉したいのも独占したいのも、全部「好き」な気持ちが含まれている。完全に細分化できるものではない」
すごいなあ。オレが半年かけてやっと言葉にしてきたものをこんなにスラスラと並べられるなんて。ロイさんもきっと感情と言葉で悩んで、訓練してきた大人なんだろう。
「だから、本当は分析なんて必要ではないのかもしれない。ただでさえ人の心は簡単に揺れ動く」
「え、じゃあどうすりゃいいんだよ」
「その、『どうしたいか』の方が重要なのではないかと思う」
「ほおおう」
感心しては変な相槌を繰り返す。目から鱗だ。同じ悩みでも他人の口からは違う言葉で表現される。
「自分の中の感情を明確にしてもしなくても、『どうしたいか』は変わらないんじゃないか。私はそう感じているよ」
「それはあんたの経験則か」
「まあな。どうしたいかが変わる要素はもっと他にある。実行に移してからの方が見えることもある」
「ふーん。なるほど」
話しているうちに美味しく料理を食べきって、デザートを食べようか迷ってるオレにロイさんは驚いている。
「君のその薄い腹のどこに料理が収まったのかね」
「え、まだ甘い物でも食おうかと」
「少し歩かないか? この後のプランも無いし。ケーキの美味しい店に移動するのはどうだろう」
「お、それいいね。ケーキケーキ!」
この店のデザートはきっと美味しいだろうけど、オレはチョコレートケーキが食べたい気分なんだ。
 ここの支払いはロイさんがする。最初にオレが支払ったそれなりの金額から出ている。足りないならまだ払うぞ。研究費は研究を行うオレのためにあるんだからな!。

 店を出て重くなった腹をさする。でも隙間は残してある。今も胃が手招きして甘いものを待っている。いつでもいいよ。まだ結構入るよって。
「あー美味しかった、こういう店に入ったことがなかったから、面白かったよ」
「君が喜んでくれたなら嬉しいよ。エドワード」
「ひひゃひゃ。なんだかかくすぐったいな、それ」
甘い言葉がこそばゆくて、思わず笑う。
「だって今日は楽しいデートだからね。君はもっと私に甘えて良いと思うよ」
「値段の分?」
「そうとも言う」
「夢のない事言っていいのか? でも、あんたのそういうところは好きだよ。オレも今日、すごく楽しい」
 この人の、食えない感じがすごく好きだ。ロイさんはきっと頭の良い人なんだろう。回転が早くて阿吽の呼吸で返事を返せる。きっと洞察力とかも鋭い。オレはそういうのからっきしだからなあ。アルにもウインリイにも空気読めとかちょっとは考えろとか、よくダメ出しを食らう。
「君がそうやって素直に返してくれるのは嬉しいな。素直ついでに、手、繋ごうか?」
「あ〜〜、それは嬉しいんだけど、やっぱり緊張しちまうから。大佐と似てない人だったらきっと何とも思わないんだろうな」
「では、君が意識してくれる事を喜んでおくよ。繋ぎたくなったらいつでも繋ぐぞ」
 何となく、大佐と手をつなぐ前に大佐の代わりと手を繋いでしまう事が躊躇われた。別に、今後大佐と手を繋いで歩くなんてことはありえないと思うんだけども。でもそれは言ったらロイさんに失礼なような気がしたので、オレなりに空気を読んで言わなかった。



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