レンタル4


 ロイさんは上品と見せかけて結構豪快に食べる。それがまた何だか色っぽい。ちなみにオレは大佐と一緒に食事をしたことはない。あ、執務室で出されたケーキを一緒に食べたことはあったな。あの時は大佐が甘いものを食べると知って驚いたしドキドキした。
「君は美味しそうに食べるんだね。見ていてとても気持ちが良い」
「そうか? あんただって、すごく美味しそうに食べてるよ」
「君との食事が美味しいんだ」
「まーたそういう」
「思ったことは素直に言うようにしている。君も、恥ずかしいと思わずに今日はなんでも言葉にしたら良い。日常生活の中では場所と相手を選ぶが、今日は私が相手だ。練習台になれる」
「そう言われても」
「感情を言葉に表すのは難しいぞ。まず自分の感情に気づき、その正体を見極め、系統立てて見合った言葉を探す。語彙も必要だ。意識して訓練しないと必要な時に的確に表せない」
確かにロイさんの言う通りだ。軽薄そうとか思って悪かった。見直してしまった。
「だが、一度言葉にしたものも絶対じゃない。後から気付ける事もあるし、言い表せる言葉を後に知る場合もある。間違いなんか無い。恐れずに口に出して欲しい」
「ごめん。デートする人だからって勝手に思い込んでて、こういう話になると思ってなかった。ありがたいな。こういう話はしたことがない」
「まだ私たちは出会って一時間も経っていないのだから、これからお互いを知ればいい。そうだろ? エドワード」
正論はオレの緊張をどこかへ消し去り、今なら何でも言えるような気さえしてくるから不思議だ。
「うん。そうだな。なあ、ロイさんの事も聞いていいの?」
「何が聞きたい?」
「まず歳とか」
「二十七歳」
「妥当だな。この仕事は何年くらいやってるの?」
「二年くらい。たまに呼ばれて」
「見知らぬ女の人とデートするのって、難しくないか?」
「もちろん個人差はあるけど、相手に目的がある場合は簡単だよ。例えば、お姫様みたいにちやほやされるデートがしたい、とか、気の済むまで愚痴を聞いて欲しいなんて人もいるね」
「男の人からの依頼はある?」
「あるみたいだけど、私は受けたことがない。今回が初めてだ」
「そっか。そっかー」
聞きたいこともたくさんあるけど料理も美味しいから、質問して、食べて、咀嚼して飲み込んで、また話して。繰り返しが忙しい。ロイさんは優雅にこなしていてこれが経験の差なのかなと思う。
「君は十五だったね。十五にしては、こう…」
「それ以上言ったらぶん殴る」
「いろいろ気になる年頃だとは思うが、今、自分の持っているものを全て長所として捉えて活用するのも大事だぞ。例えば、君はとても綺麗な外見をしている。それだけで味方は多いだろう」
「オレはきれいじゃない。嬉しくない」
「何でも自分の思い通りにはならない。みんな身勝手だからね。君も、私も、みんな。だからどこで折り合いを付けねばならないかを模索し続ける」
「大人みたいな事言う」
「おや、大人だとは思っていなかったのかい?」
でも、こんな話ばかりではつまらないね、なんて笑顔で流れをバッサリ切って、ロイさんの視線はオレを真っ直ぐ見つめる。
「君がどうして私を呼んでくれたのか、聞いても良いかな」
やっぱりそれを聞かれるのか。恥ずかしいし難しいけど、訓練に乗っかってみようと思う。
「オレは、自分が同性に興味があるのかを検証したい。そのためにお兄さんを借りた」
「黒目で黒髪、筋肉質の軍人が君のタイプ? それとも、マスタング大佐に似た人が良かった?」
「あー、うん。大佐に似た人の方がサンプルになるかと思って」
「君はその『大佐』の事が好きなのか?」
「んー、……多分」
 言おうかどうかは少し迷った。だが、大前提なので正直に告げた。ロイさんは特に驚いた様子もない。
「驚かないのか? 相手は男なんだけど」
「軍人と知り合いだという事には驚くが」
「あいつはオレの恩人なんだ。あいつと出会ってなかったら、今ここにいない。もしかしたら、生きてなかったかもしれない」
その先の空気を読み取ってくれたのか、ロイさんは、そうか。としか答えなかった。




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