レンタル2


『どんな容姿の方がお好みですか? 少しでも、一つでも、依頼者さまのタイプの者を精一杯用意させていただきます。会った瞬間からつまらない一日など、過ごしていただくわけには参りません』
電話の向こうのお姉さんにまくし立てられるがままに、動揺しながら答えた。
『あ、えっと、なら背はそんなに高くなくてもいい。中肉中背ってやつ? 体は鍛えてるような人の方がいいな。目と髪は黒くて、その、切れ長の目とかが。…え、似てる役者? あ〜、役者とかじゃないんだけど、その、国軍大佐の、ロイ・マスタングみたいな…知らないかもだけど』
『まあ! でしたらぴったりの人材を用意しております。週末をお楽しみにお待ち下さいませ』
確かそんなやりとりだったと思う。

 目の前の男は、背格好も顔立ちも、驚くほど大佐と良く似ていた。ただ、泣きぼくろや眼鏡、片側をグリスで流した髪型がとても軽薄そうに見える。シャツの色とか洋服の感じもチャラい。印象はすごく違う。なのに。
「初めまして、ご指名ありがとう。俺はアルバート・モーランだ」
 声がすごく似てる。オレをめろめろにさせる甘くて澄んだ良く通る声。顎などの骨格が似ていると声も似るって聞いたことがあるけど、これはヤバイ。びっくりして直視できない。大佐も眼鏡かけたらこんな感じかな。眼鏡かけてるとこ見たことないけど。
「えーっと、エドワード・エルリック君。だよね?」
 動揺しっぱなしのオレに念を押してくる。お願いだから覗き込まないでくれ。顔が近い。
「は、はい。そう、です」
「緊張してるだけならいいんだけど、どうしても嫌だったらキャンセルもできるから、無理しないでね」
「あっ、いえ、すごく知り合いと似ていたもので、びっくりしてしまって」
「君の知り合いに? それとも、マスタング大佐に似てる?」
「あ、はい。すごく。大佐に似てる、かな」
「時々言われるんだよ似てるって。だから、今回の依頼に俺はぴったりだと思ってるんだけど。どうかな」
「まあ、その。はい。ありがとうございます」
 要領を得ないやりとりが続く(主にオレのせいなんだけど)。なのに相手は根気良く笑顔で付き合ってくれる。優しいなあ。大佐もこんな風にニコニコ笑うことがあるのかなあ。オレは見た事無いからわからないけど。見ているうちに落ち着いてきた。やっぱりこの人は違う。似てるけど大佐じゃないや。何度か深呼吸をして、相手に向き直る。
「アルバートさんは…」
「アルでいいよ。君の事は何て呼んだらいい? エド?」
「あー、そうか。そうじゃなくて、アルだとオレの弟と名前が同じで、ちょっと居心地悪いんで」
「へえ。弟さんの名前を聞いても?」
「アルフォンス」
「そうか。ならば今日は君の呼びたい名前になるよ。何て呼びたい?」
「えーっと」
「じゃあ、『ロイ』とか?」
その瞬間、オレの顔から火が吹いた。燃えるように熱い。目に見えて真っ赤になっただろう。ロイって、ロイって! 呼び捨てだし! 名前で呼ぶとか想定してなかった。相手は大佐じゃないけど、大佐の名前を口にするってだけで緊張する。
「ははは、大丈夫?」
相手は困ったように笑う。というか、ずっと苦笑いだ。
「だ、だいじょぶ、です」
「ロイも結構ありふれてる名前だと思うけどね。君はエドで、オレはロイで。他に指定は? 話し方とか一人称とか。細かく設定するお客さんは珍しくないよ」
そっか。そうなのか。そんなこと言われたら調子に乗るぞ。
「そうだな、口調はもう少し堅めで偉そうに、人を小馬鹿にしたような、スカした感じっていうか。一人称は『私』で」
「では、こんな感じで良いかな?エドワード。エドよりもエドワードの方が少し距離があって堅く感じるんじゃないか?」
そう言って目を細めて笑った顔が意地悪そうで大佐そっくりで、オレは再び真っ赤になって頭を縦に振ることしかできなかった。




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