レンタル1



 レンタル彼氏って、すごい字面だと思うんだ。レンタル彼女も相当いかがわしいんだけど、お酒の飲めるお店のお姉さんとデートみたいなイメージがあるから何となく全容は掴みやすい。
 綺麗なお姉さんとか可愛い女の子とかが、ニコニコしながらお話ししてくれたり、デートしてくれたりするんだろう。多分きっと。
 なあ。『彼氏』だと、何するんだろう? 何をしてくれるんだろう? そんで、男が申し込んでも受け付けてくれるんだろうか?。

 十五になって分かったことがある。オレは大佐が好きだ。恋愛感情で好きだ。これがどん底に居たオレ達兄弟に一筋の光を当ててくれた恩人への感謝だけでないこと、有能な軍人として、錬金術師として尊敬していることとか。そう言った敬愛を含み更に超えたものなのだと、半年ほど行われた自分脳内会議で判明したんだ。
 あわよくば体に触ったり、街角で見かける恋人達のようにイチャイチャしたりしたい。そういう気持ちは敬愛じゃないだろ?。
 で、もう一つの論点が浮上した。オレは同性愛者なんだろうか。大佐以外の男でも付き合いたいと思うのだろうかと云う点。
 ぶっちゃけ、女性でも男性でも「誰かと付き合う・恋人同士になる」という想像が全く働かない。うまく説明できないんだけど必要がないから想像できないっていうか。ひっくり返せば、誰とでもどうにでもなりそうで。
(大佐は、大佐だけは特別なんだよなあ…。そこは揺るがないんだけど)
 どうやってもオレの貧困な想像力では補えないようだ。まだ十五年と半年しか生きてないんだから、サンプル不足なのは否めない。ならば実地で解決しようと思い至ったわけだ。
 先日、セントラルに戻った時に買ったタブロイド紙の端っこに乗っていた広告。いつもなら見逃すそれはオレに見つけてくれと叫んでいるようだった。
『あなたも夢のようなひと時を!。レンタル彼氏貸し出し中。好みの男性を迅速にお届けします。あなたの夢を叶えます。王子様は今ここに!甘い甘い時間をお楽しみください』
 何度も読んだ。どこにも「男性が申し込んではいけない」とも「未成年の申し込みは不可」とは書いていなかった。もしかしたら申し込みの際に断られる可能性はある。それはそれで諦めればいい。そう思ったオレはアルフォンスの居ない時にそっと公衆電話に走った。

「はい、こちらはレンタル彼氏受付事務所です。お客様はどのような男性をお望みですか?」
「あ、あの、幾つか質問があるんですけど…」
 質問も何もかも、感じ良くあっさりと答えてくれるものだから、質問だけと思っていたのについレンタルをお願いしてしまった。金さえ払ってくれれば依頼人が誰でも良いようだった。男でも、子供でも。ありがたいのだが、これでいいのかとも思う。
 どんな人が来るんだろう。希望のタイプを根掘り葉掘り聞かれて、いっぱいいっぱいになりながらできるだけ細かく答えた。ああ、今思えば偽名を使えばよかった。でも、プライバシーは守ってくれると何度も念をおされたので、馬鹿正直に信じることにした。よく考えたらバレて困るのってアルくらいだ。バレたら観念して話せばいいんだ。きっと呆れるだろうな。ごめんなこんな兄ちゃんで。
 まあ、なんだ。男の人が来て、一緒に過ごして、相手に対して特別な感情を抱くかどうかという実験ができればいいんだ。それだけなんだよオレは。


 待ち合わせは土曜日。お昼ちょうどに広場の大時計の前。本当にデートみたいな待ち合わせ場所だ。周囲には同じような待ち合わせの人がたくさんいて、相手はオレを見つけられるのか心配になる。なのに、オレは見つけてしまった。名前も顔も知らない、待ち合わせの相手を。
 相手はオレの視線に気がついて、笑顔で寄ってくる。
「こんにちは。君がエドワード君かな?」
 その人は、大佐ととてもよく似ていた。




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