中二病10


 オレは目の前の初恋にすっかり夢中になっていて、先生との距離をどれだけ縮められるのかが高校生活一番の議題となっている。恋って不思議だ。こんなにも心と体を支配されてしまうなんて。ふわふわしたりギリギリしたり、ムラムラしたりニヤニヤしたり忙しい。
 欲望のままに何度も押して押して我が儘を繰り返して、やっと先生の部屋に呼んで貰えた。どっきどきだ。好きな人の部屋だぞ?しかも二人っきりだぞ?期待は膨らみ過ぎて興奮で前日の夜は眠れない程だった。

 先生は一人暮らしで、オレの家より少し遠い所に住んでいた。同じ路線だって知ってたら、もっと積極的に朝から待ち伏せもしたのに、どうしてもっと早くに言ってくれなかったんだ!。
 駅で待ち合わせをして、先生のマンションに向かう道を必死で覚える。何があっても一人で来られるようにはしておきたい。
 通された部屋はシンプルで小綺麗だった。初めての先生の部屋。なんだかいい匂いがする。もう照れそう。顔がにやけてしまいそうだ。部屋には本とかファイルがいっぱいで、他に趣味があるようには見えない、真面目な人の部屋って感じだ。

「客が来るなんて何年ぶりだろうな。これでも頑張って掃除したんだぞ?」

って言うから、ありがとって頭を撫でてあげた。先生は目を細めて笑っていた。オレの下心の詰まった腹の中なんて全く知らずに。
 お部屋デートってやつは地味だが、何時いちゃいちゃの切っ掛けが現れるかと思うと気が抜けない。かなり難易度が高いデートだ。隣に座ってるのに、触って良いものか悩む。オレから触って嫌われたりしないかなあ。実は先生は、前世の記憶があるから仲良くしてくれてるけど、今はオレと恋人同士にはなりたくないって思ってたらどうしようとか考えて、不安はどんどん募っていく。
 お茶飲んで、テレビ見たり色んな話して、楽しいんだけどずっと気持ちは一つの場所にしか向いていない。不安に限界を感じたオレは、隣に並んでソファーに座る先生に向き直る。

「……せん、せ」

 一緒に見ていたテレビの流れを無視して、意を決したオレは先生の腕を掴む。

「オレ、先生のこと、すき。だから」

 恥ずかしさと緊張でうまく言えない。顔から汗が噴き出しそうなくらいに熱い。
 前世のオレ達が恋人関係で付き合っていたという事も、先生がオレを待っていてくれたんだろうという事も事実だが、だからと言って今のオレ達が恋人同士として付き合うのか、そもそも好きかどうかの確認をしていなかった事が大きな不安材料になっていた。

「夢の中のエドワードは『大佐』の事が好きだった。今のエドワードは『先生』の事が好きだ。昔のオレに負けないくらい、好きだから」

 ちゃんと伝えたぞ。先生は?先生はどう思ってるんだ?。急な告白に驚いたのか固まっていたが、すぐに笑ってくれた。

「ありがとう。…でも、言って良いものなのか、ずっと迷ってるんだ。今の私は君の担任で、本当は特別な関係というのは」

 先生が気にしている事は、恋に浮かれてるオレだってわかるよ。悩ませてごめん。あんたのそういう真面目なとこも好きだよ。でも。

「大佐」

 ならばと呼び名を変えてみた。先生ははっとした顔でオレを見る。

「じゃあ『大佐』ならいいか?」

 先生は泣きそうな顔を堪えているようにも見えた。拳を握りしめているのは、己のモラルと戦っているようにも見えた。そうだといいなと思って、オレは距離を詰める。

「大佐。好きだよ」

 そっと抱き締めて、その後どうしようか迷う。やっぱりキスとかオレからしたほうがいいのかな。した事ないけど、夢を思い出して先生の頬をそっと手で包んでみた。緊張に手が震える。正面に顔を近づけて、唇を押し付けた。拒否される可能性もあるからすぐに離す。なんかもう、頭の中が沸騰しそうだ。

「…先生が『大佐じゃない』って言ってたけど、オレだって『鋼の』じゃない。でも、それでもいいなら、どうか」

 日本語の選択を間違えている自覚はあるんだけど、こっちも緊張に混乱していて何を言ったら伝わるのか判断が出来てない。オレに色んな事をされっぱなしの先生が、やっと動いた。先生の表情からは、何て言ったらいいんだろう。ちょっと泣きそうで、でもすごく優しくて。切ないとか愛しいとか、そういう類の言葉で表す事が難しいものがいっぱい伝わって来る。大きな手が頬を撫でて、暖かくて、こっちまで泣きそうになる。

「あの時だって君は未成年で、年端もいかない子供にこんな感情を抱いて良いものなのかと、ずっと、悩んで悩んで。なのに君ときたら、私の苦悩なんて気にもしてくれなくて…」

先生ってやっぱり、元から真面目なんじゃん。やっぱり中身は大きく変わらないのかな。オレもだけど。

「オレでも鋼のでも年は変わんないんだから、いいんだよ。オレもあいつも、同じ年齢差で先生を選んだんだから」
「そんな、あまり誘惑しないでくれ。もう、死にそうなんだ」

 死なれちゃ困るから、好きにしてくれていいのに。そう告げようと思ったら顔が近づいて来て、もう一回唇が重なった。ゆっくり何度も重なって、むにゃむにゃしてるうちに先生の舌が入って来た。

「…う、……んん…」

 びっくりしてる間もなく舌を絡めてかき回されて、歯の裏まで舐められて。離れたタイミングに息を継ぐけど、また塞がれて。背に腕をまわされ体を抱えられるような体勢になると逃げ場も無い。ぬるぬる、ぬるりと動く舌に体の熱は上がる一方でヤバい。気持ちが良すぎて体の熱が上がってしまう。
 必死になって先生のシャツの端を掴んでたけど、離してもらう頃には体に力が入らない状態になっていた。

「すまない。つい抑えられなくて」

 ぐったりするオレを抱き締めて、背中を撫でながら先生は謝る。

「オレ、先生の恋人になりたい。やっぱ男じゃダメか?」
「だからね、私の理性が…」
「要らないよ、理性とか。だってオレはもう、先生といろんなことしてるから…その、夢で。何回も。すごい事まで」
「そこまで思い出していたのか。参ったな、付き合っている記憶だけかと思ってたんだが…」

 先生は本当に困っているみたいで、口元を手で隠し、考え込んでしまった。

「…そうだな。一つ、私と約束してくれないか」
「先生と付き合えるなら何でもするよ!」

先走るオレに笑いながら、先生はオレの顔をまっすぐ見つめる。

「これ以上、君の記憶を思い出さないで欲しい」



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