中二病9

先生から衝撃の告白を受けたあの日。お互いが特別な関係だってわかってから、オレは更に挙動不審に拍車がかかった。

 だって、先生はオレの恋人(だった)って事が事実になったんだ。夢で見たようなあんな事とかこんな事とか実際にしてたんだぞ?。一方的な性的欲求じゃなかったんだぞ?(今のオレの体じゃないじゃんってツッコミは横に置いておけ。体は違ってもなんだか気持良かった記憶はあるんだからな)。
 思い出す度に性的に悶々として、授業中とか先生の事を真っ直ぐ見てらんない。いや、逆にガン見し過ぎて先生がちょっと困った顔してたりする。学校で興奮しちまいそうになって本当にヤバい。
 でも実際に触ったのは、学校の物置で抱き締められたあの時だけなんだ。先生はあの後、プライベートなメアドと電話番号を教えてくれた。その特別感はオレを簡単に有頂天にして、クラスの女子が先生にまとわり付いていても余裕で見逃せる程になった。いいだろ、その人はオレと特別な関係なんだぞ!って。このプライベートな連絡先で、朝もおはようから夜のお休みまで逐一メール交換してんだぞって。

 オレの記憶を映す夢は、とうとう最終決戦の佳境に差し掛かっていた。この戦いの為に親父は途方もない時間を生きて、一人で用意を続けて来たらしい。
 大っ嫌いだったはずの親父にも訳はあったって事に少し動揺した。ずっと嫌って来て今更どうすればいいんだよ。現代の親父は仕事が忙しくて帰って来ないだけだから、何か壮大な言い訳がある感じじゃないからなあ。相変わらず仲はあんまり良くないんだ。この間も先生との面談はどうだったかって聞いたのに、『エドワード。先生にあまり心配かけるなよ』なんてざっくりした事しか言わねえし。そうじゃないよ。先生がオレの事を具体的に何て言ってたのかが気になるのに。使えねえなあもう!。
 話を戻そう。オレら兄弟は絶対に勝たなくちゃならない。負けるという事は全員死ぬという事になる。強い相手に立ち向かうが、予想以上の強大な力に既に犠牲も出ている。オレだって油断したらいつ殺されるかもしれない状況だ。週刊少年誌ならすごいい所で切られて「以下次号に続く!」ってなる辺り。なので先も気になるんだけど、今の興味が全て先生に向いてしまっているからか、先生と二人で過ごしている時の夢ばかりをよく見るようになってしまっていた。

 大佐(夢の中の先生)は軍人だからか、口調も厳しいし、みんなの前じゃ素っ気ない。なのに二人きりになるとすごくオレに触りたがった。
 鋼の右腕を大事そうに撫でて、オレをぎゅっと抱き締める。恥ずかしいんだけど嬉しくてドキドキが止まらない。大佐は流石に軍人だけあって、オレよりずっと逞しい。
 好きな人に触られてたら、そんな気分になるに決まってるよな。いちゃいちゃしてる間は甘い空気だけどすぐに先に進んでしまう。甘いはずなのにお互いに切迫してる。それは性欲だけでなく、ずっと抑えていた会いたかったという気持ちと、次は会えないかも知れないという焦りと半分半分だったと思う。
 大佐という人は、ちょっといい加減で掴みどころの無い雰囲気を漂わせつつ、中身は相当の切れ者だ。大胆で強引な一面もある。部下にとても信頼されているけど、敵も凄く多い。毎日何かと戦っているような人だ。
 今の先生は、もっと優しくて物静かで、何と言うか角の無い人って印象がある。誰にでも好かれてていつでも正しくて頼りになって。でも、あの大佐と同じ人ならば、人知れず胸に焔を秘めているのかもしれない。なーんて。この人にあんのか?そんな荒々しい部分が。
 オレだって夢の中の鋼のとは違うんだ。同じ状況になったらあんなにストイックに生きていけるのかな。平和な毎日にだらけきって生きてるからなあ。
 そんなただの十代の学生でも、先生は同じように好きになってくれるだろうか。鋼の錬金術師、エドワード・エルリックでなくても。


「先生。オレ、あんまり夢、見なくなっちまって」

 ちょっとだけ心配になってきたので、二人きりになった時に先生に切り出してみた。今のオレらは日曜日にこっそり出かけてデートだってしちゃうんだからな。

「見ない時期もあるよ。私だって、同じ場面ばかりを何年も繰り返し見ていた時期がある」
「でもさ、もう決着だと思うんだ。…最後だけ分からないのも落ち着かなくて。どうなったかは教えてくれないのか?」

 先生は困った様にオレを見る。

「前から言っているように先入観を与えたくはないんだがね。同じ状況に居ても、君と私は同じ事を考えているとは限らない。イメージを誘導したくないんだ」
「あのまま勝ったんじゃないかとは思う。負ける事なんて一ミリも考えてなかったから。でも、不安なんだ…」

 俯き気味に呟く。心配させたくて少し演技が入った事は認める。オレは子供という武器を最大限に駆使してとても狡い。先生は困った顔のままオレの頭を撫でて、どうしようか考えているようだった。少し迷ってから

「本当は言いたくないのだけれど」と前置きをする。
「君ら兄弟は勝ったよ」
「先生は?」
「生きているよ」
「オレらは?オレと先生は?」

 撫でていた手が止まって引っ込む。もうちょっと触っててくれてもいいのに。

「…みんな、幸せになったよ」

 先生は優しい表情でそう言った。だからオレも『そうか幸せになったのか』なんて、言葉を鵜呑みにして納得していた。
 その後も先生は『誘導はしたくない』という理由を盾のように構えて、具体的な事は何一つ教えてくれなかった。



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