デリマス 7


 自身に籠もり始める熱に焦りつつ、ロイは指を舐めて濡らす。その指先でエドワードのアナルをなぞり、ぐりぐりと押して反応を見る。
「…や、や…あ」
「こっちもした事は無い…だろうね」
「何だよ、無いとか、あるとか」
「力を抜いて。エドワード」
 ロイは狡い。甘く優しい声で名を呼ばれても、それはお願いとは程遠く、エドワードに拒否権は無い命令だ。わかっていてもそれに勝てない。そして、相手が勝てない事もロイは知っている。
「……っ!」
 言われた通りに力を抜いた体に、指の先端がアナルに差し込まれる。唾液で濡らしてはにじらせて進み、狭い肉を押し分けてゆっくりと動く。
「痛くはないか?」
「痛いより、くるし…っ」
「私の指が一本、入っているだけだよ」
 痛みがない事を確認して、ロイは再び愛撫を始めた。ペニスを口に含んで中で舐めながら、穴に差し入れた指で内壁を探るように、爪先で傷つけないように動かす。指の腹で押しているうちに、エドワードの腰が跳ねた。
「やっ!なんか、あ」
 前立腺だろうと思われる場所を優しくなぞり、時折入り口を弄る。エドワードの息が声が、甘さを含み泣くような色を含み始めた。
「……や、あ、…っン…」
 シーツを握る手に更に力が入る。それを横目に見つつ、ロイは更に追い立てる。
「あ、ぁ、…っあ…っ!」
 身体は強張り、差し入れた指は入り口の肉に締められ口の中には性の青臭さが広がった。ロイはそれを飲み干して顔を上げた。相手を制したという謎の満足感と優越感に、とても気分がいい。
 目の前にはぐったりと脱力したエドワードが、薄い胸を上下させている。快感に弱いのだろうか、少し放心状態に恍惚を残した表情が悩ましい。
 口元を拭い、エドワードの額へと軽いキスを落とす。涙を溜めた大きな目。ぼんやりとした視線がロイを捉えるが、他に動きはない。
「良かっただろ?」
「……あんた、ほんと…」
 続く言葉は肯定でも感謝でもないだろう。しかしそれが罵倒の言葉だったとしても、今の状況でのロイには誉め言葉にしかならない。
「時間がまだあるな。もう一度抜いてやる」
「え?」
「この間の一時間では物足りなかったから、二時間のコースにしたんだろ?」
「そうじゃねえよ。あんたが一時間じゃ大した事出来ないって言ったから」
「何をどこまで期待しているのかな君は。男を相手にしているのに」
「だから、ちょっと待ってってば!もう無理だって」
「時間が無いだろ?ほら。君はスケベだからこれくらいいけるだろ」
「ほんと、っねえ、あ……」



 その後、ロイの手管にまんまとやられたエドワードは、後ろから抱き締められる形でロイに焦らされながら手で抜かれ、全てが終わったのは残り十分という素晴らしいタイミングだった。
 二回も出してすっきりしたというのに、快感を与えられ過ぎた身体は驚く程重い。時間を気にしてのろのろと起き上がりパンツを探すエドワードに、ロイがベッドの下から拾って渡してやる。
「私が帰ったら、思い出してもう一回抜くんだろ?」
「抜かねえよ!」
 反射的に言い返して、恥ずかしさに不機嫌な表情のままエドワードが茶封筒をロイに差し出す。
「これも」
 その上に添えられた物は、先週ロイが置いて行ったハンカチだった。きちんと洗濯してアイロンまでかけてある。
「いいと言ったのに。洗ったのなら君が使えば良い」
「あんたから物を貰う理由がねえ」
「律儀だなあ。ハンカチが一枚増えてラッキーくらいに思っていればいいのに」
 返しても受け取らなさそうなエドワードに苦笑いながら、ロイは封筒とハンカチを受け取った。そして、やはり中身を確認せずにポケットにしまう。
「確認しろって。金額」
「君は誤摩化したりする子じゃないからね」
「子って言うな」
「子だろ?未成年」
「くっそ」
 エドワードは抱かれている間に一つに括っていた髪が乱れた事を気にして、ロイに背を向けてそれを結い直す。白いうなじは先ほども見ていたのに、仕草に少しだけ悪戯心が湧いて来る。ロイはすっとそばに寄ると、後ろからエドワードを抱き締め、首筋に唇を寄せた。
「ひゃ!」
「首、弱いね。耳もだが」
「な、もも、もう、じかん過ぎてるから…」
「しないよ。じゃあな」
 慌てふためくエドワードを置いて、ロイはさっさと出て行ってしまった。
「……なんだよ、あいつ」
 相変わらず何を考えているか分からない相手に振り回されて、どっと疲れが戻って来た。玄関に鍵をかけてエドワードはぱたりとベッドに倒れ込んだ。先ほどまでの快感やロイの残り香を反芻する余裕も無く、すとんと闇に落ちて行った。


***


 講義終了のチャイムが鳴ると、来週の内容についての説明がまだ教壇から叫ばれているにもかかわらず生徒が一斉に立ち上がる。
「あれー?お前、今日の飲み会は不参加?」
 数少ない友人の一人に声をかけられて、エドワードは少しバツの悪い顔をする。忙しいカリキュラムの隙間に設定した飲み会だと分かっていて断るのは、やはり申し訳なく思う。一学期の時は飲み会の機会があれば誘ってくれと自分から頼んでいたのだから。
「あ、悪い。バイトなんだ」
「エルリックは最近付き合い悪いんだよな。今日、文学部の女の子来るらしいんだけど、いいのか?」
「ごめん。今度で」
 ざわめく講義室から、エドワードが人をかき分けてそそくさと出て行く。その背中に向けられた『今度なんて機会無いからなー』という最終通告のような叫びは聞こえていたが、今日は本当にバイトがあるのだから仕方ない。
「あいつ、彼女でも出来たんじゃねーの?」
「そんな素振り無かったじゃん」
 同じ専攻の仲間が抜け駆けなんて許さんと笑って、今日の幹事は飲み会参加者のチェックシートからエドワードの名前を消した。
「なんか金が必要で、バイト掛け持ちにしたんだって」
「え、また増やしたのかよ。居酒屋と深夜のスーパーは?」
「それもやってるみたいだよ」
 他の飲み会参加者が更に首を突っ込んで、ここに居ない人間の話が盛り上がる。
「あいつ特待だよな、やっぱ遊んでる金は無いのかな」
「母親は死んでるらしいよ」
「じゃあ大変だな」
 悪気は無いが、どうしても本人が居ないと言葉はストレートになる。その流れを切る様に幹事が口を開く。
「えー、先にここに居る奴にだけ言っとく。文学部の女子は何人来れるか不明。そして、グラマン教授が参加決定」
「どうして!」
「またか!」
 断れだのまたかだの口々に重なる文句を、腕を軽く振って遮る。
「なお、グラマン教授参戦により、K大の女の子が数人来そうだ、との事だ」
「どうして?」
「やった!」
 グラマン教授はなぜか一年生の飲み会にまで入って来たがる。訳を先輩に話を聞くと『だって君たち、三年四年になったら就職活動で忙しくって、飲み会も合コンしないじゃない?とか言われたぞ。お前らも二年程度だから頑張れ』と、肩を叩かれた。
 ショッキングな通達にエドワードの話は跡形も無く消えてしまった。教授の謎の人脈で女の子は増えたものの、武勇伝で貴重な飲み会を潰されない事を祈る、経験の浅い一年生達であった。





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