デリマス 4

「時間が無いんだから、恥ずかしがってたら勿体無いぞ。一時間ではさっさと抜かないとすぐに終わってしまう」
 いくらエドワードが腰を引いても、狭い部屋はテーブルと壁の間の距離などたたが知れている。細い腕を掴んで引き寄せ、そのまま床に押し倒し、覆いかぶさって上から顔を覗き込む。少し脅えた様子のエドワードに、ロイの興奮が高まる。
 行為を躊躇う相手が自分の「人格」を嫌っていないのなら、優しさで押し貫いて抱ける事をロイは知っている。互いに人となりの欠片も知らない関係であれば、それすら考え無くてもいい。
 目の前で困惑を見せるエドワードは既に体に熱を溜めている。ならば更に簡単だ。
「ちょっ、待てっ」
「こういう時は、何も考えないほうがいい」
 再び唇を重ね深く舌を絡めても、エドワードは抵抗しなかった。ロイはエドワードの体を拘束している訳ではない。今、逃げないのは彼の意思だ。
 ちゅ。と音を立てて唇を離して、もう一度顔を覗き込む。急に離れた唇に瞼を開けたエドワードを待って、視線を真っ直ぐに繋いだ。
「なあ、私の事は嫌いか?」
「え」
「エドワード。君と居られる時間は残り少ない」
 まるで、愛しい恋人に一緒に居たいと告げるような声音。しかし答えは待たずにロイの手は進む。ズボンの金具を器用に片手で外し、下着と一緒に押し下げる。少し乱暴な勢いと下半身を晒される不安に、エドワードが心許なく脚を擦り寄せて動かす。
「私が怖い?」
「べ、別に」
 負けまいと言葉を返すエドワードに、ロイが目を細めて笑む。他に意識を向けさせまいと、流れた金の前髪から覗く白い耳を舐めて、耳朶を甘噛みする。
「あっ」
 息と共に漏れた声が堪らなく恥ずかしい。エドワードは唇を強く閉じるが、それを開かせようとするかの如くロイのちょっかいは耳に集中する。
「耳、好き?」
「…や、っン…」
「これ。大人しくさせるよりも出した方が楽だと思うんだがね」
 既にエドワードのペニスは芯を持って立ち上がっている。柔く硬く熱い肉を、指で根元から撫で上げて握り、ゆっくりと扱き出す。ロイも男を相手にするのは初めてだが、同じ男なら快楽のツボは似たようなものだ。裏筋を押し上げるように手を動かせば、エドワードが耐え切れず甘い吐息を漏らす。
「…ん、……ふ、ぅっ」
「もう漏れてる。いやらしいね」
「っは、ァ……っ。や、もっ…」
 先端をぐりぐりと押し潰すように弄ると先走りがロイの指を濡らした。これなら簡単に達してしまうだろう。耳から顔を離してまた深いキスで口を塞ぐと、手の動きを早めてエドワードを追い詰めた。
「んっ!、ん、ン…ッ!」
 耐えるようにしがみつく腕。ロイの口の中にエドワードの喘ぎが伝わる。そして、硬直する体と、手の中にとろりとした感触。
 口を離せばエドワードはぐったりと脱力して、苦しげな息を繰り返す。先に身体を起こし、ロイは改めてエドワードの下半身を眺める。白い腹と色の薄い性器はあまりにも自分の物とは違う。金の茂みがやけに薄く幼く見えて、不思議な欲が湧いてくる。
(…何を考えているんだ。俺は)
 思わず唾を飲んだ自分に驚きながら、下らない思い付きを払底する。
 ロイはさっき丸めたハンカチで、自分の手とエドワードのペニスを拭う。べたつく精液を丁寧に拭いていると我に返ったエドワードが慌てて起き上がり、ロイに背を向けて服を正す。
「ほら、それ使っていいからちゃんと拭いておけ」
「あんたのハンカチじゃねえか」
「君だってティッシュくらい使うだろ」
「使うけどティッシュだし」
「それ捨てとけ。持ち帰る気にはなれん」
「だからって机に置くな!」
 終わった途端にロイの態度が戻った。最中に見せた甘さの欠片は既に一ミリも残っていない。空気中にすら無い。鼻先を擽るのは自分の精の臭いで、それがまたたまらずに恥ずかしくさせる。
 相手の余りの変貌にエドワードが納得いかないといった表情で睨む。
「なんだ怒ってるのか?、良かったろ」
「…感想が言いにくい。良いんだか悪いんだかわかんねえ」
「まあ、イくくらいは良かったろうに」
「くそ…」
「さて、そろそろ帰ろうかな。手だけ洗わせてもらうよ」
「洗面台はそっちのドアだよ」
 こんなにも飄々とした態度でいられると、エドワードの苛立ちも呆れに変わってくる。ロイが手を洗って戻ると、すっかり落ち着いたエドワードが茶封筒を差し出した。
「これ」
「ん?、…ああ」
 薄い封筒には今日の代金が入っているのだろう。ロイは受け取ると中身も確認せずにポケットに突っ込む。上着を着てさっさと玄関へと向かう後をエドワードも追う。
「中身は確認しなくていいのかよ」
「少し時間はオーバーしたが、サービスしてやろう」
「そうじゃなくて、金額合ってるかとか」
「君は違えて払う子じゃないだろうからいいよ」
「なんだよ、それ」
「先に基本料金を計算して、用意してそうだからな」
「だから、見てたみたいに言うなよ!」
 ほらごらんと言わんばかりに満足そうなロイと不機嫌なエドワード。金の頭をぽんと撫でると、縮むから触るなと文句を返されるが、エドワードもそれ以上を拒みはしない。
「あんた、さ。また呼んだら来てくれんの?」
「どこの世界に、好き好んでオーナーが直々に営業するデリヘルがあるんだ。しかも男を相手に。それに君、まだ学生じゃないか」
 革靴を履いてくるりとロイが振り向く。では。と出て行くロイを見つめるエドワードが何かを言いたそうにしている。
「擬似恋愛だよ」
「え?」
「風俗というのは、契約を結んで前提を守り、その中で楽しむ遊びだ。楽しかったろ?でも、勘違いはする奴はその「遊び」に向いていない」
 ロイが少し強い口調で釘を刺す。言葉にあからさまに表情を険しくして、金の目がロイを睨み付ける。
「なんだよ。オレがあんたに惚れたとでも?」
「違うのか?」
「思い上がるな。バカにしやがって」
「バカにはしていないよ、大切な『お客様』だからね。まあ、あまり気にするな。童貞とか、未経験とか」
「あんたホントに意地悪いな!」
「童貞とか」
「繰り返すな!」
 最後まで失礼な言葉を楽しそうに口にするロイに、エドワードが反論した所で何も勝ててはいない。ひらひらと手を振って、ロイが狭い玄関から外に出た。外は明るくて、光の中へと出て行ったロイが眩しくてエドワードは目を細めた。
「あまり無理はするなという事だ。君は君でとても魅力的だよ。焦る必要は無いと思うんだがね」
「なっ…」
 思いもしなかった言葉に顔が真っ赤になる。それを見てロイが勝ち誇った顔で笑む。絶句するエドワードを一人残して、ドアはパタンと閉まった。



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