デリマス 3

「なんだよ、触んな!」
 怒られても叩かれなかった手は、丸みを覆うようにするりとエドワードの白い頬をなぞる。
「土産に教えてやろうか。君に足りないものを」
「あんた、男じゃねえか」
「女から体験し学んだ事を、男の仲間に経験として自慢したいのだろう?。ならば、男の経験を直に教えて貰えば楽じゃないのかね」
「理屈ならそうだけど」
「胸だの尻だの言う前に、君はもっと本質を見失っている」
 顔に触れても逃げないというのは、相当のマゾヒストか馬鹿みたいな意地っ張りか。まあどちらでもロイには都合がいい。
 そっとエドワードの手を握って、優しく指を絡める。ゆっくり引き寄せて、ロイは伏し目がちにしながらエドワードの前で唇を落とす。
「っ……!」
「ドキドキするだろ?」
「ああああ、あんた、なんか、に……っ」
 言葉は気丈だが、既に顔は欲を期待している。そりゃあそうだろう。ヤるつもりでソワソワしながら待って、これだけ待たされてたら落ちるに決まっている。そしてロイには自信があった。男であっても、目の前の子供を自分の色香で丸め込んでしまえるだろうと。
 見せつけるように細い指先に舌を這わせると、その視線はもう外せなくなっている。指先を舐めて、くわえる。軽く噛んでから、ちゅ。と、音を立てて離す。
「どうする?、エドワード」
 エドワードの肩がふるりと震えた。しかし、視線をロイから外すことが出来ず、困惑を浮かべたまま固まっている。
「君がイヤなら何もしない。一応、イレギュラーだが商売だからね」
「………」
「君に、もっと触れても?」
 何も返せない子供の、耳元に唇を寄せる。しかし、身体には触れない。息だけがかかる距離を保って、優しく、甘く、低く囁く。
「…エドワード」
 名を呼べば再び肩が揺れた。何かに耐えるように体は動けないのに、絡めたままの指先をエドワードはきゅっと握った。それは、エドワードがロイの誘惑に落ちた瞬間だった。
(ほら、こんなにも容易い)
 ロイの口角が引かれ意地の悪い笑みが浮かんだが、エドワードには身体が近すぎて、それに気付く事すら出来なかった。
「もっと、こっちへおいで」
 今までとは違う優しい声で呼ばれて、引き寄せられるようにふらりと体を預けてしまう。大人は両腕でそっと包むように抱き締めて、エドワードは簡単にその胸に埋もれた。
 触っての実感だが、エドワードは思っていたよりも小さい。ロイが相手にしてきた豊満な女性達よりも。しかしそれは彼の自尊心を傷付けるような気がして口には出さなかった。ロイの手は存在を確かめるように頭を撫で、背を撫で、肩も腕もと表面をなぞる。
「よく鍛えているんだな。何か運動をしてた?」
「弟と、近所の道場で…」
「もしかして、腹も割れてる?。格好良いね。見てみたいな」
 誉めては安心させ、ちゅ。とキスを落とす。髪に、額に、耳に。ガチガチに緊張しているエドワードに構わず、甘やかす仕草を繰り返す。
「エドワードは温かいね。体温は高い方?」
「そうでもない、かも。そんなの、あんただって…」
「何だ?。ちゃんと私に教えてくれ」
「…あんたも、あ、あったかい。よ」
 慣れない言葉に照れながら、エドワードも律儀に返す。どれだけ素直なんだと心の中だけで呆れながら、恋人にするような仕草でエドワードの唇を指先でなぞって先を想像させて煽る。
「キスしてもいいかな。君の初めてを、私と」
「いっ、一々、言わなくてもっ」
「言葉は大切だよ。人の気持ちなど、言葉で伝えなければわからないが、言葉にしたって全てが相手に通じる訳じゃない」
 もっともらしい説明だが、ロイにとっては、ドラマに出て来るような安いセリフで相手の気持ちをそこへ向かわせているに過ぎない。それでも、ロイの言葉にエドワードが目を閉じ少しだけ顎を上げた。長い金の睫が綺麗に並んで可憐に見える。まるで少女のような仕草。今、擬似的でも確かに彼は自分に恋をしているのだろう。これがロイの仕掛けた安い魔法であり、最初から全てが計算の内。
「……、し、たい…」
 唇が震えるように動いて、緊張に掠れた声がした。瞼を強く閉じすぎて、白い眉間に皺が寄っている。必死なのだろうな、と、ロイは他人事で眺める。相手が落ちて当たり前の駆け引きに勝った所で、ロイの気持ちが上がる訳でもない。しかしそれを悟られないよう、おくびにも出さずゆっくりと唇を重ねる。
 エドワードは相変わらず固まっていて、更に息を止めているようだ。ロイはただ接触させた唇を、様子を見ながら何度も重ね直す。
「息、したほうがいいぞ?」
「しっ、してるっ!」
「口で出来ないなら鼻で出来るだろ。キスしてる最中に酸欠で倒れられたら困る」
「してるってば!」
 一事が万事こんな調子だと、何時まで経っても先に進めない。ロイは待つのを止め、背に回した腕をの位置をずらして体勢を変えた。抱えるような体勢から、キスも唇を割るようにして舌を差し入れる。
「っ!」
 驚きに力が抜けた所に咬み合わせた。大人の舌はエドワードの口内をゆっくりと舐めて動かす。歯列をなぞり、舌を捉え、ぬるりぬるりと味わうように絡めては、エドワードに分かるようにわざと荒い息を漏らす。絡めたまま舌先を吸い上げたり柔く噛んだりと、深く深く互いの浸食を進めていく。
「…ん、う…」
 エドワードも馴れてきたのか煽られたのか、自ら動かしてロイの口内を探る。たどたどしくも応戦してくるそれを、ロイは大人気なく絡め取って攻め立てる。二人が触れ合う一点でわざと水音を立て、息つく暇なくキスを続ける。子供のキスは柔らかくて拙くて、慣れた女の味とは違う刺激にロイも少しだけ我を忘れた。
 暫く、ロイはしつこいくらいにキスだけを繰り返していた。重ねては離し、深く差し入れて柔らかく中を抉る。小さな舌にこれでもかと絡めて弄ぶ事を続けた。
「ン、…ふう…っ」
 苦しいのか猫のように喉を鳴らす相手に気付き、一度唇を離してやった。エドワードの様子がそろそろ気にかかる。
 顔をのぞき込むと、欲に溶けてぼんやりとした視線、上気した頬。唇を唾液で濡らして薄くひらいたまま息を繰り返している。エドワードの指先がいつの間にかロイの袖を握っていたことに気付く。
「感想は?」
 悪いと言われる事は無いと思いつつ聞いてみる。指で唇を拭って言葉を待つ間も、エドワードは大人しくしている。
「こんな、の、すんの?」
「え?ああ。普通はここまでしないだろうね、こんなに時間をかけてキスしたりは。客は時間内にどれだけヤれるかが大切だから、雰囲気も大切だがもたもたしてたら女の子が叱られる。もっと、適当に進んだ方が良かったか?」
「なんか、わかんねえから」
「良いか悪いかくらいはわかるだろ。君の体なんだから」
 ロイの手が当たり前のようにエドワードの脚を撫でた。太腿を撫で上げると、エドワードは慌てて腰を引く。
「良くなったんだろ?、男が相手なのに」
「あんたが!、あんたがそういう事すっから!」
「そういう事がしたくて呼んだんだろ」
「だから、オレが呼んだのは男じゃないし!」
「まあでも、楽しかったろう?」
 出て来た言い訳にロイが意地悪く笑む。時計を見れば、もうそろそろ基本料金の終わる時間だ。
「ついでだ。ほら、ズボン脱げ」
「いっ、意味わかんねえし!」
「オーナー自らが手を貸してやろうと言うんだ。ありがたいだろ」
「ありがたくねえよ!なんだよてめえホモかよ!」
「失礼だな。同性愛者ではないよ。貧乏で童貞の可哀想な後輩学生に良い思いをさせてやろうという優しさじゃないか」
「あんたの言ってる意味がさっぱりわかんねえ!」
 ロイがスーツの上着を脱ぐと、エドワードは警戒して座ったまま後ずさった。均整のとれた大人の体の形は、薄いシャツ越しにもわかる。じっと見つめる視線も気にせずに、ポケットからハンカチを取り出して、くしゃっと柔らかく握る。



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